2017年3月19日 河北新報掲載 半島の恵みが堪能できる新たな「おしかグルメ」をみんなの手で。
伝統捕鯨や牡蠣やワカメなどの養殖といった、半島独特の地形を生かした漁業で知られる牡鹿半島。
この地もやはり、東日本大震災による津波で甚大な被害を受けました。
地域に根ざした水産業はかつての姿を取り戻しつつありますが、
海のレジャーや民宿など観光の賑わいを取り戻すためには、もう少し時間が必要となりそうです。
そこで、半島の自然に親しむ観光客を集め、この地域に活気をもたらすために
新たな地元名物となり得る「おしかグルメ」づくりにチャレンジ。
牡鹿地区の人々と仙台市内のレストランシェフたちが強力なタッグを組みました。
牡鹿半島の新鮮な食材の数々
牡鹿の海を体感しながらレシピのアイデア探し
昨年9月25日、プロジェクトに賛同してくれた「フレンチレストラン プレジール」佐藤克彦シェフと「ビストロ アンセルクル」佐々木現人シェフが、石巻市狐崎浜(きつねざきはま)を訪問。 おしかリンク代表の犬塚恵介さんがガイド役となり、牡蠣漁師の阿部政志さんと対面しました。港に案内されて、早速目にしたのはいけすのワタリガニ。 「数が少なくて、出荷できないんだけどね」と阿部さんは笑いますが、思わぬ食材を発見して2人のシェフの目が輝きます。そして長年、阿部さんが携わってきた牡蠣養殖の話へ。 現在は、震災前と同等の生産量を取り戻し、新鮮な殻付き牡蠣が人気だそう。「牡蠣もそうだけど、ここは漁場として恵まれているからね」と阿部さん。 それを聞いて、「鮮度の良いまま浜焼きにするような、素材そのものを楽しめる調理がベストかも」と、佐藤シェフは何かつかんだようです。
右上/狐崎浜の牡蠣の魅力を語る阿部政志さん 右下/鮎川地区の「番屋」で民宿の女将さんたちとシェフが対面
左/牡鹿の海の幸について聞き取りしながら調理するシェフたち
ワタリガニ数杯をお土産にもらい、鮎川浜の「番屋」へ移動。ここでは、「割烹民宿めぐろ」のご主人、目黒繁明さんと、地元で民宿を営む女将さんたちが出迎えてくれました。 テーブルの上には、ホタテや塩蔵ワカメ、剥き身のホヤなど、地元ならではの海の幸がズラリ。女将さんたちからは、震災後、客足が遠のいている現状と、宿泊客の楽しみとなっているのが宿の食事だという話を聞きました。 「料理にあまり時間を割けない」「凝ったものは無理」と、口々に悩みをもらす女将さんたち。その声に応えるように、シェフたちは食材を持って調理室に入りました。限られた器具と調味料だけを使い、手際良く調理する2人の姿に思わず魅入ってしまう一同。 会話をしながらあっという間に仕上げた、レモンの酸味を効かせたホタテのソテーや、ワタリガニそのものからソースのダシをとった茹でガニなどを味わって、口々に「おいしい!」と感激。 佐々木シェフは、「この地で味わうからこそおいしくて、民宿の皆さんで共有できるレシピが必要ですね」と提案してくれました。
牡鹿の食材に工夫を凝らした5人のシェフの力作を試食
素晴らしい食材の宝庫として手応えを得た佐藤シェフと佐々木シェフは、さらに3店舗のシェフに相談を持ちかけ、「おしかグルメ」のレシピづくりを本格的にスタートさせました。 レストラン終業後に集まり、毎夜、それぞれのアイデアを提案。実際に現地から食材を取り寄せ、実食しながら調理法を考えましたが、塩蔵ワカメなどオーソドックスなフランス料理ではまず見られない食材には、ちょっと苦戦したようです。 メニューのアイデアがある程度固まったところで、牡鹿半島癒しの旅委員会のメンバーに味わってもらおうと、1月30日に橘祐二シェフのお店「オ・コションブルー」でお披露目を行いました。 店内に入ると、「ホタテと明太子のクロックムッシュ」をはじめ、ズラリと並ぶ色とりどりの料理を目の当たりにして、目黒さんたちはビックリ。「浜のお母さんたちでもあまり苦労しない、シンプルなレシピをいろいろ考えてみました」と、佐藤シェフ。 「どれもおいしくて目移りしていますが、うちの割烹料理にどう組み込むか…」と目黒さんが感想を話すと、「レストラン ツジ」の辻圭一郎シェフは、「提供するシチュエーションも大切ですね」と、新たな課題も指摘しました。 また、「レストラン拓」の樋口拓也シェフが作ったクジラの味噌カツサンドに舌鼓を打っていた石巻観光協会の齋藤富嗣副会長は、「鮎川にとって、クジラは大切な食文化の一つです。そのおいしさと一緒に歴史や地元の思いも伝わる料理であって欲しいですね」 と願望も語ってくれました。
地域復興の担い手たちがサポート
一般社団法人おしかリンク 代表理事
犬塚 恵介さん
地元愛知県の設計事務所で建築の設計監理に携わっていましたが、東日本大震災の発生後、石巻市へ。建築的な視点で復興をサポートするプラットフォーム「アーキエイド」でインターンとして活躍後、さらなる地域再生を目指すため一般社団法人おしかリンクを設立。自身も石巻に居住しながら、古民家の再利用などさまざまな活動を展開しています。
割烹民宿めぐろ 主人
目黒 繁明さん
石巻市小渕浜の民宿として、1993年に父親が開業。目の前の海で獲れる新鮮な魚介が楽しめる民宿として人気を集めましたが、震災の影響で一時休業。2014年6月に待望のリニューアルオープンを果たし、繁明さんが2代目を襲名しました。牡鹿半島と周辺の離島にある旅館・民宿有志で組織する「牡鹿半島癒しの旅委員会」の取りまとめも務めています。
特製ランチボックスの完成を目指して
シェフ5人でさらなるレシピの検討を行った後、2月21日に同店で「今できることプロジェクト」協賛社向けの試食会も開催しました。当日は2部制で、参加者は50名。 プロジェクトの概要とシェフによるメニューの説明が終わった後、バイキング形式で自由に味わってもらいました。テーブルの前には、何度も並び直す参加者の列が絶えないほど大好評。 飛ぶように料理が無くなっていき、シェフたちも満足そうな笑顔を見せました。鮎川地区の「民宿みなみ荘」女将、斎藤舞美さんは「このおしかグルメで、鮎川が盛り上がる契機になれば」と、大いに期待を寄せています。
お皿いっぱいに料理を盛り付ける参加者の方々
食を通して牡鹿半島の魅力に興味が高まる機会に
そして、試食会の締めくくりに犬塚さんは、2人のシェフが手掛けるレシピの料理を詰め込んだ〝おしかグルメのランチボックス〟として完成させる構想を発表。 「牡鹿半島には、海の景観はもちろんですが、山手の自然も豊かで、素晴らしい観光スポットにあふれています。また、毎年9月に開催されている自転車イベント『ツール・ド・東北』のコースにも選ばれており、自然に親しみながら楽しむ周遊観光にピッタリです。 そのお供に、このランチボックスを携えてもらい、味覚でも満足してもらえるよう、この取り組みを進めていきたいです」と話すと、会場から拍手喝采が沸き上がりました。
右上/観光マップを掲げながら、今後の展望を語る犬塚さんと目黒さん 右下/おしかグルメ完成への意欲を表明する橘シェフたち
左/それぞれの個性が光る料理の数々
ランチボックスは、現在プロジェクトメンバーで完成に向けて取り組んでいますのでご期待ください。
牡鹿半島の味覚と観光の魅力を体験できるツアーを今後実施する予定です。詳細は後日、朝刊紙面にて発表いたします。
仙台市内で人気のレストランシェフたちがレシピ開発!
Au Cochon Bleu
フランス食堂
オ・コションブルー
橘 祐二さん
French Restaurant Plaisir
(フレンチレストラン
プレジール)
佐藤 克彦さん
BISTROT UN CERCLE
(ビストロ アンセルクル)
佐々木 現人さん
Restaurant Tsuji k-e
(レストラン ツジ)
辻 圭一郎さん
Restaurant TAKU
(レストラン 拓)
樋口 拓也さん
協賛社試食会に参加した方の感想
三菱地所株式会社 東北支店
住宅事業課
大家 光裕さん
シェフが手掛けたどの料理もおいしくて、一皿一皿に牡鹿半島の海の恵みが凝縮されていると感じました。昨年4月に仙台へ来たばかりで牡鹿半島に足を運んだことはないのですが、牡鹿の海へ興味を持つきっかけになりました。
日本生命保険相互会社 仙台支社
支社次長
吉岡 秀高さん
仕事柄、各地でいろいろなものを口にしていますが、あらためて牡鹿の海の幸のおいしさを感じることができました。「おしかグルメ」を味わってその産地を訪ねる、聖地巡礼のような感動を体験できるツアーができるといいですね。