山吹色の法被やのれんや看板で親しまれている「こだま」は1949年に創業し、その翌年には看板商品「餅入りどら焼」が誕生しました。「仙台名物 こだまのどら焼」として、70年以上にわたり、お客さまの人生の一場面にお供させていただいてきました。
業歴としては老舗に当たりますが、常に新しいことに挑戦する「地域創生系どら焼屋」を目指しています。新卒採用の際には学生さんに「私と地域とこだま」という主題で発表してもらいます。なぜって? 「自分は何のために働くのか」こそが、その人を成長させる原動力になるからです。ビジネスや仕事は、必ず自分以外のだれかの課題解決につながっていますよね。仙台に「こだま」があることが、地域の方々の喜びにつながっていく。それを私たちは目指したいし、学生さんの各自の視点で見ると何が見えますか、という問いかけの先に発見があってほしいと願っています。
では菓子屋の世の中への貢献とは何でしょうか。甘いもの、おいしいもので空腹を満たす幸せも当然ありますが、お菓子にはご贈答用、ご自宅用、自分へのごほうび的な意味も含め、「贈り物」としての性格があります。私が一番大事にしたいのはこの点で、お菓子は時に、人生の想い出とともにあるんです。例えば「おばあちゃんが好きだった」とか「お父さんがお土産によく買ってきてくれた」とか、お菓子には「人とのつながり」を思い起こさせる力があります。私は、いい菓子屋は「想い出販売業」になれると思うし、それを目標にしています。
どら焼がなくたって生きてはいけますが、よい人生、よい想い出、よい記憶の場面に、うちの商品があったら、それは作り手としては最高の喜びです。仙台で70年余の商売をさせてもらって、「こだまのどら焼の想い出」をお聞かせいただいたら、うれしくなってしまう話がたくさんあって、本当にありがたいことです。
菓子屋に限らず、地元企業は皆そうかもしれませんが、もう少し視野を広げると、企業としての最大の貢献は、若者が活躍できる地元をつくることだと思います。菓子屋は原材料を仕入れて加工して売ります。じゃあ、地元の原材料で何か作れないかと考えて自前の農場を仙台市太白区秋保町に開設しました。若手の農家の協力で枝豆を栽培し、先日、初めての収穫をしました。将来の製品化に向け、枝豆の品種も比較検討しています。ゆくゆくは体験型農場にして6次産業化を図りたいです。秋保には温泉はもちろん、醸造所など新しい人、若い人が集まってくる動きが相次いでいて、人のつながりの可能性を感じます。
宮城、仙台は「大学までのまち」なんて、大学を卒業すると県外に出てしまったり、東京の大学に行ったら宮城に戻らないと言われますが、もっと面白いまちづくりができるし、それを形にしていくのが地元企業の使命です。ビジネスの原点は感動の提供。もっともっと、磨けば磨いただけ光る、そんな感動の原石が仙台、宮城にはあります。老舗の三代目だからといって、のれんにあぐらをかくようなことはありません。いつだってスタートアップの気持ちで進んでいきますよ。