俳句(3/17掲載)

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【石母田星人 選】

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ぷちぷちと春の息吹が耳を打つ  (石巻市中里・須藤清雄)

【評】まだ寒さの残る早春。全ての自然が色を取り戻そうと動き始める。人間は五感を通してその動きを知る。この句は五感の中の聴覚の句。具体的に対象を挙げているわけではないが軽快な響きを聴いている。泡のはじけるさまか、もしかすると草の芽か木の芽が開く音なのかもしれない。耳で感じ取った春の命。

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春風に躓くやうにわらし駆け  (石巻市門脇・佐々木一夫)

【評】幼い子は頭が重いせいか体が前に傾く。歩き始めると前傾姿勢になりそのまま走りだしてしまう。足が止まるとすぐ転ぶ。膝を何度すりむいても泣きもせずまた走りだす。みんなこうして大きくなる。この句の舞台は広い原っぱ。「春風に躓(つまづ)くやうに」の比喩表現が巧み。幼い子どもの走りを的確に捉えている。

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一万六千の面影ありてつるし雛  (東松島市新東名・板垣美樹)

【評】華やかなつるし雛。触れると雛たちが静かに回った。こちらを見たり向こうを見たりと表情はさまざま。その動きに亡くなった方々の面影が重なった。

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野に山に背伸び促す雨水かな  (東松島市矢本・雫石昭一)

【評】雪が雨に変わる頃が雨水。背伸びを促されているのは野や山だけではない。私たち人間も促されているのだ。大いなる声に耳を傾けて背伸びをしよう。

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枯葦を折れば夕日の音がする  (石巻市相野谷・山崎正子)

春一番糸杉に来て猛りをり  (石巻市桃生町・西條弘子)

絶海の孤島の浮力蜃気楼  (東松島市矢本・紺野透光)

金星と月が語らふひな祭  (石巻市広渕・鹿野勝幸)

沈黙も言葉のひとつ黄水仙  (石巻市大森・横山つよし)

防寒着きて乳ねだる子牛かな  (石巻市飯野・高橋芳子)

庭石に靴跡のあり春の雪  (石巻市桃生町・佐々木以功子)

復興へ地下足袋とんと地虫踏む  (多賀城市八幡・佐藤久嘉)

啓蟄やパン屋の前の長い列  (仙台市青葉区・狩野好子)

左手のマイクの軽し春の雪  (石巻市中里・川下光子)

一滴が岩に染み込む春の雨  (石巻市吉野町・伊藤春夫)

春の雨や東京マラソン根尽す  (石巻市南中里・中山文)

閉店の花月食堂鳥雲に  (東松島市野蒜ケ丘・山崎清美)

嗅ぐ猫に薬のはなし日永かな  (石巻市開北・星ゆき)

指切りのかすむ思い出名残雪  (東松島市矢本・菅原れい子)

喜寿近し悔ひ反省の雨水かな  (石巻市三ツ股・浮津文好)