俳句(3/3掲載)

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【石母田星人 選】

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摘草の籠にあふれて悦子亡し  (石巻市相野谷・山崎正子)

【評】ヨモギやセリなどの野草でいっぱいになった籠。一生懸命に摘んでいたせいか、陽光に背中を温められたせいか、心地よい疲れで幸せな気持ちになる。ふと日が陰った瞬間、好きだった女優市原悦子さんを思い出した。下五で思いもよらない展開となる構成。「あふれて」が効果的でこの語が上下の言葉に作用。喜びの中に湧いてきた空虚感を巧みに表白する。

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哲学を語りし河畔姫すみれ  (東松島市矢本・紺野透光)

【評】論じれば論じるほどに結論が遠ざかる哲学。それでも議論はなかなかやめられない。そんな青春の一ページ。この河畔は随分変わったが、友人と激論を闘わせながら眺めた小さな姫すみれは、あの頃と何も変わっていない。青春と今をつないでくれる紫色だ。

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干し鰈海見ゆるまで反りかへり  (石巻市小船越・三浦ときわ)

【評】まずは直射日光に当てて、次に風通しの良い場所で陰干し。意外に大変な作業だ。尾びれが大きく反ったのだろうか。「海見ゆるまで」の俳味は巧妙。

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蛇穴を出でて目にせし獣魂碑  (石巻市小船越・加藤康子)

【評】虚子は<蛇穴を出て見れば周の天下なり>で目覚めた蛇を古代王朝に送った。この句では獣魂碑を見せる。長生きしてくれという願いかもしれない。

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啓蟄や口角キュッと紅をさす  (石巻市中里・川下光子)

寡黙なる男の胡坐春隣  (石巻市小船越・芳賀正利)

おでん屋に哲学理論おいてきし  (東松島市野蒜ケ丘・山崎清美)

西行の歌碑立つ丘や春の潮  (石巻市南中里・中山文)

水仙を攻め来る海の碧さかな  (多賀城市八幡・佐藤久嘉)

春の土ぬくもり多き喜寿の朝  (東松島市矢本・雫石昭一)

春めきてどかりと堆肥田んぼかな  (石巻市広渕・鹿野勝幸)

雪の像開拓の日々しのぶかな  (仙台市青葉区・狩野好子)

理髪師の鋏捌の風光る  (東松島市新東名・板垣美樹)

窓を打つ二月の霙妻の留守  (石巻市吉野町・伊藤春夫)

風の止み大気うしなふ深雪かな  (石巻市開北・星雪)

初物の若布と届く浜便り  (石巻市北上町・佐藤嘉信)

冬日射す磯の片隅古昆布  (石巻市門脇・佐々木一夫)

青き踏む仮設跡地の公園に  (石巻市中里・上野空)

蕗の薹復興団地に根付きをり  (東松島市あおい・大江和子)

着ぶくれの白髪禿頭待合室  (石巻市中里・鈴木登喜子)