俳句(3/31掲載)

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【石母田星人 選】

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残る鴨湖の夕日をこなごなに  (石巻市小船越・三浦ときわ)

【評】晩春になっても北へ帰らず居残っているのが「残る鴨」。傷ついたり、病気になったりして群れに加わることのできなかった鴨だ。仲間の鳥たちがいた水面にポツンと浮かぶ姿には寂しさが募る。とはいえ掲句の鴨は寂しさよりも開放感に浸っているようだ。夕日を映す水面を伸び伸びと独り占め。着水の揺れを固体に使われる「こなごな」とした見立てが効いた。

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野遊びに子の直球を受けにけり  (東松島市矢本・紺野透光)

【評】「子の直球」と球種を絞ったことが効果的。直球は球種のうち球速が最も速いものをさす。ただのキャッチボールではなく真剣勝負の趣。その球を受け止めたグラブが小気味いい音を立てた。子どもの力を感じるのは親の最高の喜び。春の日差しが心地いい。

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大堰を煌めき跳ねる春の水  (石巻市小船越・芳賀正利)

【評】ただの堰ではなくて大堰。大の文字から勢いよく豊かな水量が見えてくる。水は光り輝き、水音も高い。万物の命を育む躍動だ。臨場感あふれる一句。

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ものの芽をほぐし十一日の雨  (石巻市桃生町・西條弘子)

【評】あの日の強い雨は、被災地の固い草木の芽をほぐしてくれる優しい雨だったのだ。夕空に出現した虹もきっとあの雨が手配してくれたものに違いない。

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清明の空見あげたる鹿アート  (東松島市矢本・雫石昭一)

啓蟄やエスカレーター地の底へ  (石巻市小船越・加藤康子)

麦踏やメソポタミアのくさび文字  (東松島市新東名・板垣美樹)

八年の春を経て来し星あかり  (石巻市桃生町・佐々木以功子)

春愁やペットボトルの蓋固く  (石巻市中里・川下光子)

参道の箒目清し春なかば  (仙台市青葉区・狩野好子)

遠洋に深き祈りの弥生かな  (石巻市開北・星ゆき)

灼熱の野火は命のこやしかな  (石巻市門脇・佐々木一夫)

托鉢の顎紐なおす春一番  (東松島市矢本・菅原れい子)

旅終へて眠りあづける春炬燵  (石巻市広渕・鹿野勝幸)

地下足袋を履けば田畑耕せり  (石巻市吉野町・伊藤春夫)

梅一輪たしかその頃大震災  (多賀城市八幡・佐藤久嘉)

固まらぬ茶碗蒸しかな鳥雲に  (東松島市野蒜ケ丘・山崎清美)

還暦の子の退職や三月尽  (石巻市南中里・中山文)

濁流の汚水に浮かぶ椿かな  (東松島市赤井・茄子川保弘)

百歳の義母の祝ひや春ショール  (角田市角田・佐藤ひろ子)