俳句(4/28掲載)

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【石母田星人 選】

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春の窓児の一音に師の二音  (石巻市開北・星ゆき)

【評】窓ガラスを挟んだ2人。「コン」とたたくと「コン、コン」と返す。児と師の笑顔のあいさつだ。中七以下の「児の一音に師の二音」は、省略の効いた巧みな表現。いつもは無機質なガラス窓も「春の」という言葉がのると、魔法にかかったように生き生きと輝く。「児」の文字があるだけで、何か新しいことが始まるような気もする。2人の笑顔は春そのもの。

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ガンダムの冑と剣に春の塵  (石巻市小船越・芳賀正利)

【評】端午の節句を前に、五月人形と一緒に並べたガンダムのフィギュア。ガンダムは子どもの大好きなロボットアニメ。もう独立した子のものなのだろう。「春の塵」には過ぎ去った年月がのる。よそにいても子の成長を願い続けるのが親。優しさがあふれる。

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散策の門前町や鐘朧  (東松島市矢本・雫石昭一)

【評】春の昼間は霞たなびき、夜になるとその霞が朧になる。シンプルな作りの句だが、下五「鐘朧」がいい。この季語によって門前町が立体的に変わる。

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桜月夜鬼百匹の宴かな  (東松島市新東名・板垣美樹)

【評】闇の中に浮かぶ桜ほど妖しげなものはない。加えて月明かりが差そうものなら発光体と化す。その下で鬼の宴が開かれていても何ら不思議ではない。

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川上に佳き里あらむ花筏  (東松島市矢本・紺野透光)

春暁や舳先逆立て漁船(ふね)帰る  (石巻市蛇田・石の森市朗)

菜の花を上下に分けてローカル車  (石巻市南中里・中山文)

新学期時計の針も弾むよう  (多賀城市八幡・佐藤久嘉)

金釦光る別離の春陽射し  (石巻市桃生町・西條弘子)

軒吊りの玉葱芽吹く浦日和  (石巻市相野谷・山崎正子)

芽ぐまんとアメリカ杉の紅を吹く  (石巻市小船越・三浦ときわ)

耳かきも自愛のひとつおぼろの夜  (東松島市矢本・菅原れい子)

咲いてより風ばかりなる花こぶし  (石巻市広渕・鹿野勝幸)

十字架の瓦の屋根や雪の果  (石巻市中里・川下光子)

さりげなく笑みを浮かべる桜かな  (石巻市中里・須藤清雄)

枝無しの幹に顔出す桜花  (東松島市赤井・茄子川保弘)

遠蛙母の字小さくなりにけり  (東松島市野蒜ケ丘・山崎清美)

慰霊碑の黙の月日や黄水仙  (石巻市中里・鈴木登喜子)

色のなき墓地のあわいに黄水仙  (仙台市青葉区・狩野好子)

病棟の薄きコーヒー雛の朝  (石巻市流留・大槻洋子)