コラム:梅一輪

 梅の花が咲き、花びらが散る頃に桜が花開く...これが石巻地方の例年の風情ですが、今年は開花が遅れています。3月の初め、市図書館の庭にある旧宮城県石巻女子高跡地の梅の木々には、冷たい雨に打たれながらたった一輪、白梅が健気に咲いていました。もう咲きそろってもいい時期でしたが。

 先日、熱海市のMOA美術館を訪れました。お目当ては、国宝に指定されている尾形光琳の珠玉「紅白梅図屏風」。実物を目の当たりにして、その華麗な様式美には圧倒されました。

 説明文には「紅白梅」は"Red and White Plum Blossoms"と英訳されています。「梅」は英語で plum(プラム)とよく言いますが、調べてみるとそう単純ではないようです。

 Japanese apricot が梅の正しい英訳です。plum は「(西洋の)スモモ」ですから、Japanese plum と言っても「梅」の意味にはなりません。さらに、apricot(アプリコット=アンズ)は植物学的には同じバラ科に属しながら、がく片が反り返らない点などがウメと異なります。

 また、英語の語彙として認められつつあることから ume と言うこともできますが、理解できない人のためには ume(Japanese apricot)とするのが親切でしょう。

 梅を詠んだ俳句の中で私たちに最もおなじみなのは「梅一輪 一輪ほどの暖かさ」でしょうか。この句の作者・服部嵐雪は芭蕉の弟子。これは一般に次のように英訳されています。

"One plum blossom  One blossom's worth of warmth."

 簡潔にするためでしょうか、ここでは「梅」を plum と訳しています。

大津幸一さん(大津イングリッシュ・スタジオ主宰)