俳句(5/26掲載)

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【石母田星人 選】

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夕闇の岸辺に繋ぐ花筏  (東松島市矢本・雫石昭一)

【評】散った花びらが寄り添って筏(いかだ)のように川面を流れて行く。夕暮れの岸辺には旅立つ前の花筏が待機する。よく詠まれる光景だが表現に独自性が見える。俳句では主語・主格を省略するのが通例でそのときは作者が主語になる。この句も省略の構図だが、主語は作者ではない。「繋(つな)ぐ」の表現が、天地を司る存在を主格に据えている。大いなるまなざしが感じられる。

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文字通り水の惑星五月かな  (石巻市広渕・鹿野勝幸)

【評】初夏の水の風景はさまざまあるが、この句は田植えの光景。一緒の投稿句に<田植機を浮かべ惑星五月かな>がある。田植え機に乗り上から見たことで「水の惑星」の表現をつかんだのだろう。水を張った広い田んぼが青空を映して鏡のように見えたのだ。

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軒端まで踊子草に攻められて  (石巻市小船越・加藤康子)

【評】笠(かさ)をかぶって踊る人のように見える踊子草。その踊りが迫ってきた。「攻められて」には戸惑いも見えるが、それ以上に踊子草の生命力に驚いている。

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暖かや一言で足る受け応へ  (石巻市小船越・芳賀正利)

【評】以心伝心。相手との深い信頼関係が見える。この句の「暖か」には皮膚で感じ取った気温とともに相手を思う心理的な温かさが込められている。

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さくらさくら部落総出の宴なり  (石巻市北上町・佐藤嘉信)

白椿雲を見つめて落ちにけり  (東松島市新東名・板垣美樹)

薬降る日々の黙祷あれこれと  (東松島市矢本・紺野透光)

八年の歳月の地や燕来る  (石巻市蛇田・石の森市朗)

日時計の正午は花の風止めり  (石巻市桃生町・西條弘子)

放流の水音猛しこいのぼり  (仙台市青葉区・狩野好子)

春うらら路傍の草が喋り出す  (東松島市矢本・菅原れい子)

青春を語らふ老いのすみれ草  (石巻市大森・横山つよし)

試着衣の一枚鏡夏の立つ  (石巻市開北・星ゆき)

青空の色鉛筆やチューリップ  (石巻市中里・川下光子)

花林糖の音は幸せ麦の秋  (東松島市野蒜ケ丘・山崎清美)

木の根開く栗駒山の山開き  (石巻市吉野町・伊藤春夫)

小女子を踊り食いするカモメかな  (石巻市門脇・佐々木一夫)

明け方の屋根打つ音や青時雨  (石巻市南中里・中山文)

廃れたる捨て家に映ゆ柿若葉  (石巻市駅前北通り・小野正雄)

しなやかに青葉揺らして風そよぐ  (石巻市中里・須藤清雄)