俳句(6/23掲載)

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【石母田星人 選】

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朝市の空気あをあを夏野菜  (東松島市あおい・大江和子)

【評】旬の野菜や魚介類、さらに総菜や漬物などが並べられる朝市。この句、そんな朝市の空気を「あをあを」と捉えた。この青い色は夏野菜のみずみずしい輝きのことだけではない。人々の活気や朝のすがすがしい匂いなど、朝市の全てを感受して生まれた色だ。

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老鶯や声のみ渡りゆく団地  (石巻市北上町・佐藤嘉信)

【評】老鶯は夏の鶯。老と付いているが、夏の鶯は春よりよく鳴き衰えなどは全く感じられない。新しい団地の明るい空を鶯の声が渡ってゆく。姿は確認できないが、その声には張りがあり存在感がある。空気を震わせるほどの響きが周囲を包む。上五「老鶯や」の表現がいい。切字「や」の後の一拍が、余韻と抒情を生んでいる。「老鶯の」では説明調でやや平板。

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慎ましく白衣にもある更衣  (東松島市矢本・紺野透光)

【評】この句の白衣の主はどんな職業の人だろう。上五の「慎ましく」は、夏服への小さな変化を語っているのだろうが、職業を想像する手掛かりにもなる。

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合歓の花夫ありし日の椅子二つ  (石巻市大森・横山つよし)

【評】庭にあった椅子はもうない。目前にあるのは合歓の花だけ。淡い紅の合歓の花が開くたび、並べて置いていた椅子と、優しかった夫の笑顔を思い出す。

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見下ろして見上げて日和山に初夏  (多賀城市八幡・佐藤久嘉)

夏空へ部活最後のヒットかな  (石巻市広渕・鹿野勝幸)

夕映えの河原に集ふ洗ひ馬  (東松島市矢本・雫石昭一)

谺する海猫の恋唄五月かな  (石巻市駅前北通り・津田調作)

みどり児の枕はうすく麦の秋  (石巻市小船越・芳賀正利)

咲ききりて錆の重たき白椿  (石巻市小船越・三浦ときわ)

千枚の植田に寄する白い波  (仙台市青葉区・狩野好子)

落日を丸のみしたる植田かな  (東松島市新東名・板垣美樹)

噛み合わぬ話のままや額の花  (石巻市中里・川下光子)

五月雨ややや傾きし地平線  (石巻市吉野町・伊藤春夫)

万緑の音のみ響む廃校舎  (石巻市開北・星ゆき)

眼科へと娘に送られる桃の花  (石巻市蛇田・石の森市朗)

手をつなぎ渡る園児や夏帽子  (石巻市南中里・中山文)

指刺して白ばら一片朱に染め  (石巻市門脇・佐々木一夫)

ほやの旬舌に広がる初夏の味  (東松島市矢本・菅原れい子)

道の駅客を持て成す巣の燕  (東松島市赤井・茄子川保弘)