俳句(6/9掲載)

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【石母田星人 選】

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長旅を終えし大河や皐月波  (多賀城市八幡・佐藤久嘉)

【評】長旅の主は大河を流れてきた水。山に降った雨が沢から川に流れ海に出る。やがて雲となって再び山上に雨をもたらす。地下水も湧水となってめぐる。これらの水は山や土の養分を運ぶ。この物質の移動が生き物の命を育む。日本人は稲作を始める前後から、この水の循環という自然の秩序に気付き、水を信仰の対象としてきた。この句は河口での旅の終わりの景。新たな旅の始まりでもある。祈りが見える抒情句。

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蝉の声乗せず快速過ぎし駅  (東松島市矢本・雫石昭一)

【評】目の前を風とともに快速列車が通り過ぎた。残されたのは駅のホームと大音響で鳴く蝉の声。各駅停車の列車ならばたっぷりと蝉の声を乗せられるのに何ともったいない。暑さの中でそう感じている作者。

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船頭のまあるくまるく投網打つ  (石巻市桃生町・西條弘子)

【評】船頭の打つ網に見とれてしまったのだろう。大きく広がった姿には美しさがある。臨場感あふれる中七の表現できれいに開いた投網の様子が描かれた。

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児童らの演技すり抜け揚羽蝶  (仙台市青葉区・狩野好子)

【評】夏の蝶は揚羽蝶をはじめとしてみな大ぶりで鮮やか。飛び方に躍動感がある。運動会に現れた蝶。子どもの演技に合わせて戯れているようにも見える。

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牛語り農を語って緑濃し  (石巻市広渕・鹿野勝幸)

一山を包む琴の音茅の輪解く  (石巻市相野谷・山崎正子)

鈴蘭や手話のてのひら胸に置く  (東松島市矢本・紺野透光)

風薫る赤子に確と土踏まず  (石巻市小船越・芳賀正利)

青葉風吹き抜けてゆく野面かな  (石巻市桃生町・佐々木以功子)

千匹の列を乱さぬ鯉のぼり  (石巻市中里・川下光子)

フルートをまなうらに聴く五月雨  (東松島市新東名・板垣美樹)

初蝶や老いの化粧は入念に  (石巻市蛇田・石の森市朗)

陽炎に包まれ祖父の畑打ち  (東松島市矢本・菅原れい子)

夕凪をつなぎ止める筏かな  (石巻市門脇・佐々木一夫)

噴水の空に夢あり障子ケ岳  (石巻市吉野町・伊藤春夫)

春更けて一涙長き絵ローソク  (石巻市開北・星ゆき)

初夏や木魚のリズム持ちかえり  (東松島市野蒜ケ丘・山崎清美)

梅干しの梅が染めゆく指の先  (石巻市南中里・中山文)

立喰屋の長き行列春の風  (石巻市中里・鈴木登喜子)

梅雨空や鉄路の重くひびきをり  (東松島市あおい・大江和子)