コラム:ダウニング街10番地

 先月24日、テリーザ・メイ英首相は6月7日、首相官邸前で記者団を前に辞任すると発表しました。

 "I've done everything I can ..."「できるだけのことはやったつもり」。感極まり、涙声で"... gratitude to have the opportunity to serve the country I love,"「愛する国に仕えたのは生涯の光栄でした」と結びました。

 「鉄の女」(Iron Lady)と言われた故サッチャー首相に対して、「氷の女王」(Ice Queen)という異名で知られたメイ首相が最後に見せた涙です。

 私は英米の政治家のスピーチには感心させられます。英語を駆使した巧みな演説。時には皮肉やユーモアに満ちています。シェークスピア以来の伝統のなせる技でしょうか。

 さて、メイ首相が立ったのは首相官邸の前。ロンドンのウェストミンスター・ダウニング街に位置するこの建物は300年以上の歴史があり、「10」とだけ書かれた玄関の黒塗りの扉が有名です。そもそもイギリスの家は住人名を掲げません。住居番号や部屋番号だけを表示します。従って、この首相官邸の住居表示は「ダウニング街10番地」"10 Downing Street"で、一般に呼ばれています。

 関連して二つのことを思い出しました。

 一つは「ベーカー街221B」"221B Baker Street"。イギリスの小説家、アーサー・コナン・ドイルが生みだした私立探偵シャーロック・ホームズ下宿の住所です。

 もう一つは、19世紀英国の文豪トーマス・ハーディの代表作「テス」(Tess)。メイ首相の本名テリーザ・メアリー・メイ(Theresa Mary May)の Theresa の愛称が Tess です。

大津幸一さん(大津イングリッシュ・スタジオ主宰)