俳句(7/7掲載)

  • 投稿日:
  • by
  • カテゴリ:

【石母田星人 選】

===

葭切や飯田口説をくり返し  (石巻市小船越・三浦ときわ)

【評】葭切(よしきり)は5月頃に南方から飛来し水辺のアシに営巣する。同じフレーズを繰り返して「ギョギョシ、ギョギョシ」と大声でさえずる。ずっと聞いていると繰り返しの音律が頭を回って離れなくなる。この句はそんな葭切の声に、「飯田口説(はんだくどき)」の節回しを重ねた。突然、近くのアシでせきたてるような鳴き声がした。そろそろ逃避行が始まるくだりなのかもしれない。

===

夏の月人形達の立話  (石巻市小船越・芳賀正利)

【評】屋外ではなく室内の光景と読んだ。夏の月が差し込んで人形達を照らしたのだろう。月がいる間の軽いおしゃべりだ。感情を持たない人形とは言ってもこうして立ち話をされてみると内容が知りたくなる。幼い素朴さがあり、童話のようなイメージもある。

===

すつきりと皮脱ぎてより今年竹  (石巻市相野谷・山崎正子)

【評】この春生え出た竹の子をずっと眺めてきた。竹は根元から順に皮を脱いでいき、青々と丈を伸ばし始めた。観察の継続で得た上五の措辞が印象的。

===

八十八夜茶筒の蓋の花合せ  (石巻市中里・川下光子)

【評】花模様があしらわれた樺(かば)細工の茶筒だろう。花の模様を合わせながら「あれに見えるは茶摘みじゃないか」と童謡「茶摘み」を口ずさんでいる。

===

幸福の隣が空いて三尺寝  (東松島市矢本・紺野透光)

麦秋や娘の縁談の進みだす  (石巻市蛇田・石の森市朗)

梅雨しきり長城のごと防波堤  (石巻市広渕・鹿野勝幸)

万緑や北上山地に峰いくつ  (多賀城市八幡・佐藤久嘉)

月山へ雲海踏みてまた踏みて  (東松島市矢本・雫石昭一)

唐竹の子やのびのびと天を指す  (石巻市駅前北通り・津田調作)

豆飯の湯気の芳し白磁かな  (仙台市青葉区・狩野好子)

紫陽花や海王星のかけらめく  (東松島市新東名・板垣美樹)

雨垂れに聞き耳たてるあやめぐさ  (石巻市門脇・佐々木一夫)

あやめ園傘の雫も紫に  (東松島市矢本・菅原れい子)

花南天あれよと空へ核家族  (石巻市開北・星ゆき)

水たまり踏みて夏雲散らしけり  (石巻市南中里・中山文)

梅雨寒や大地の揺れは鎮まらず  (東松島市あおい・大江和子)

みどりごの視線の先や夏来たる  (石巻市桃生町・佐藤国代)

カーテンの向う明るし更衣  (東松島市野蒜ケ丘・山崎清美)

梅雨晴の復興マラソン国なまり  (石巻市元倉・小山英智)