【石母田星人 選】
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空蝉の琥珀の傷や朝の雨 (石巻市小船越・三浦ときわ)
【評】蝉(せみ)の幼虫は地中で数年から十数年を過ごす。やがて幼虫からさなぎになり木に登る。背中を割ってその皮を脱ぎ成虫となる。その抜け殻を空蝉(うつせみ)と呼ぶ。この句、「琥珀の傷」の表現に詩心がこもる。成虫の型を取ったような姿の空蝉。薄茶の透明な美しさなのだが、背中に開いた裂け目に目がいく。「傷」としか言えないのだ。その傷口を朝の雨が優しくぬらす。
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名月や五穀豊穣照らしをり (石巻市門脇・佐々木一夫)
【評】今年の中秋の名月は曇りがちの天候だった。それでも時折、雲の間から顔を出してくれた。晴天の月の出よりも鮮烈な出現となった。あの月光が豊かに実った稲穂を静かに揺らしたのだ。震災をくぐりぬけ今年も立派に育ってくれた。感謝の気持ちが乗る。
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音が見え光が聞こゆ揚花火 (石巻市相野谷・山崎正子)
【評】間近で見た揚花火の臨場感を出すため感覚を駆使した句。揚花火の大いなる爆発で、動詞の役割も一緒に吹き飛んでしまったようで、何とも面白い。
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墨痕を鮮やかにして夏果てぬ (石巻市桃生町・佐々木以功子)
【評】まだ暑いには暑いが、秋が近づいているのを感じる。それを感じさせてくれたのが墨痕。昨日より文字が伸び伸びと見える。夏の果てを実感したのだ。
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荻の声筆の流れる散らし書き (仙台市青葉区・狩野好子)
蜉蝣の水に触れんとして光る (東松島市矢本・紺野透光)
虫の音や古賀メロディーにコップ酒 (東松島市矢本・雫石昭一)
友来ても友来なくても新走り (石巻市小船越・芳賀正利)
新米の正夢という光かな (多賀城市八幡・佐藤久嘉)
秋天やどこまでも空すっぱだか (石巻市開北・星ゆき)
象の群れ月を率ゐて歩みけり (東松島市新東名・板垣美樹)
川沿ひの教会白亜都鳥 (石巻市蛇田・石の森市朗)
捻り田へいざ出陣やコンバイン (石巻市広渕・鹿野勝幸)
被災地の稲田に広がる黄金波 (東松島市矢本・奥田和衛)
浜茄子の紅い実の数死者の数 (石巻市恵み野・木村譲)
山葡萄積る話は山ほどに (石巻市吉野町・伊藤春夫)
黒き蛾や飛び交う韮の花舞台 (石巻市南中里・中山文)
小鳥来る駅長一人だけの駅 (東松島市野蒜ケ丘・山崎清美)
育ててとひ孫持ち来る野菊かな (石巻市三ツ股・志賀野みよ子)
「お月さまがついてくるね」って四歳児 (角田市角田・佐藤ひろ子)