俳句(10/27掲載)

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【石母田星人 選】

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磯みちは一人の身幅秋の暮  (石巻市相野谷・山崎正子)

【評】磯に下りるまでの斜面の道。人の背より高い草が左右を覆う。少し勢いをつけて磯道に飛び込む。体中を草にたたかれる窮屈な時間がすぎると、一気に視界が開ける。中七「一人の身幅」が緊張感を生む。

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脳髄の煮らるるごとき原爆忌  (石巻市駅前北通り・小野正雄)

【評】この夏、広島市の原爆資料館を訪ねた。展示内容が一変。作りものが少なくなり、遺品など実物の資料を重視した展示に変わっていた。特に遺品に持ち主のお名前が明示されたことで、強い現実感と当事者意識が生まれて、見事なリニューアルだと感動した。この句は、湧き上がってくる悲しみと怒りを「脳髄の煮らるるごとき」と表現。私が資料館で感じた思いをそのまま韻文にしてもらったようで、心動かされた。

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発砲音響き全山夕紅葉  (東松島市矢本・紺野透光)

【評】収穫の秋。農家は銃声音や爆発音を使った鳥追いの仕掛けを設ける。この発砲音もその音だろう。それを合図に全山が色づいたようにも読めて魅力的。

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腰かばひ農夫が運ぶ今年米  (石巻市広渕・鹿野勝幸)

【評】腰痛と付き合っていると、痛みがくる瞬間が分かる。そうならないように姿勢に気をつけて作業をする。こうした苦労があっての今年米。頭が下がる。

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鳥渡る更地となりし仮設跡  (石巻市小船越・三浦ときわ)

向日葵や震災遺構の校庭に  (石巻市蛇田・石の森市朗)

晩秋や一人二人と友去りて  (東松島市矢本・雫石昭一)

秋晴や窓全開の保育園  (石巻市小船越・芳賀正利)

梵鐘の余韻の中や秋暮るる  (石巻市南中里・中山文)

底無しの真闇の沼や散紅葉  (石巻市中里・川下光子)

曼珠沙華地軸傾くツーリング  (東松島市新東名・板垣美樹)

新涼や筆の重みを画仙紙に  (石巻市桃生町・佐々木以功子)

遠見にも秋刀魚と知れる天日干し  (多賀城市八幡・佐藤久嘉)

唐辛子吊してありぬ何でも屋  (石巻市吉野町・伊藤春夫)

木犀の甘く香るや坂の町  (仙台市青葉区・狩野好子)

鵯の声一樹の森に谺せり  (石巻市開北・星ゆき)

里芋の木箱並ぶや八百屋口  (東松島市赤井・茄子川保弘)

草笛の音色を置いて少年いずこ  (東松島市矢本・菅原れい子)

連弾のショパンの曲や秋桜  (東松島市野蒜ケ丘・山崎清美)

秋天や我等のみ込む立石寺  (東松島市矢本・菅原京子)