【石母田星人 選】
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空っぽになるまで泣く児獅子頭 (石巻市開北・星ゆき)
【評】正月の門付けの一つ獅子舞。獅子頭をかぶり笛や太鼓、鉦、鈴のはやしにのって家々を舞い歩く。頭をかんで厄を払う。「空っぽになるまで泣く児」が見事。子は泣くのが仕事。この子はいい仕事をした。
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落ちてなほ紅あざやかや寒椿 (石巻市桃生町・西條弘子)
【評】椿の花は、花びらが散るのではなく花全体がぽとりと落ちる。「散る」ではなく「落ちる」のだ。この句、寒椿という単なる客体を描写した写生のようだが決してそうではない。ここには寒椿の生命が表現されている。中七「なほ紅あざやか」の作者の主観が寒椿に作用することにより、かえって客体である花の実相に迫るものがある。落ちたばかりの寒椿と作者の魂の交感が見える。
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門口に一粒の豆春来る (仙台市青葉区・狩野好子)
【評】立春、立夏、立秋、立冬の前日が節分。現在では立春の前日だけが残った形だ。豆をまいて食べて邪気よけをする。「一粒の豆」だけで想像が膨らむ。
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聖火待つブルーの翼春近し (東松島市矢本・雫石昭一)
【評】聖火到着式を前にブルーインパルスが五輪を描く訓練をした。大空にあふれる日の光に春の気配を感じ取った作者。季語「春近し」の斡旋が効果的。
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命ある限りを歩め冬の蝿 (石巻市蛇田・石の森市朗)
蝶生る更地に一つ野蒜石 (東松島市新東名・板垣美樹)
小正月大浴場のひろさかな (石巻市丸井戸・水上孝子)
雪合戦搦手門を固めけり (石巻市吉野町・伊藤春夫)
春立つやハンディキャップを糧にして (東松島市矢本・紺野透光)
流星にねがひを託す受験生 (石巻市小船越・芳賀正利)
問ふ人も問はるる人もマスクして (石巻市広渕・鹿野勝幸)
宇和島の蜜柑と聞かば伊達な味 (多賀城市八幡・佐藤久嘉)
鳥の影かすめてとおる春障子 (石巻市南中里・中山文)
片耳の補聴器襲ふ冬の風 (石巻市中里・川下光子)
日本海果てまで響く冬怒濤 (石巻市門脇・佐々木一夫)
深水にどっぷり浸かり芹を摘む (石巻市桃生町・高橋冠)
冬銀河屋台に湯気の薄灯り (石巻市元倉・小山英智)
作るのも喰ふのも一人かき雑炊 (石巻市恵み野・木村譲)
研ぎあげた刃物のような冬の空 (東松島市矢本・菅原れい子)
冬空や仮設解体音さびし (石巻市のぞみ野・阿部佐代子)