短歌(2/23掲載)

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【佐藤 成晃 選】

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また一つ薬の増えし帰り道いつもの角で小石蹴飛ばす  (石巻市門脇・佐々木一夫)

【評】若い時に飲む薬は、病気が治れば止められますが、高齢になってからの薬は簡単には止められないことが多いのです。「病気を治す」ことよりも「病気と付き合う」という形で薬とも長く付き合うことが求められてしまうからです。医者に体の不調を相談すると即座に一剤が追加されてしまったのでしょうか。今でさえ毎朝数錠の薬を飲んでいるのに、更に付け加えられてしまったことへのやるせない不満。下の句が如実に作者の心情を述べていて妙というべきでしょう。

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カレンダーの半ばを埋める日程に生きる幸せ広げておりぬ  (石巻市南中里・中山くに子)

【評】例えば「月」ごとのカレンダーをテーブルに広げ、来月の予定を書き込んでみる。おおよそ半分ほどが埋まったカレンダーを見ながら「忙しい」という思いと同時に、心のどこかで「よし、がんばるぞ」という気持ちにもなれることがありますね。そこを「生きる幸せ広げて」と詠みこんだところが読者の共感を呼ぶところだと思います。そんな表現にたどり着くまでの推敲が作歌の面白さだと思います。

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老いてなお付けて外してイヤリング鏡の中は女の円舞曲(ワルツ)  (石巻市桃生・千葉小夜子)

【評】外出の時の装いは女性にとっては「普通」「普段」ではない何かがあるのでしょうか。鏡に向かってイヤリングのあれこれを着けたり外したり。上の句は語のつながりから言えば不都合な感じのする所もありすが、その分「忙しい」「落ち着かない」気分もかもし出されます。下の句の「鏡の中は女の円舞曲」は絶妙でした。原作は「円舞曲」となっていてルビは無かったのですが、「ワルツ」とふってみました。字余りの解消のための試みとして。

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角巻(かくまき)のフリンジ重き雪の粒黙し歩みき分校への道  (石巻市大門町・三條順子)

一年の加齢の重み口の端(は)にブレーキ増やす「余計なことは...」の  (石巻市開北・星ゆき)

季(とき)の風津軽の海を吹き抜けて底曳(そこびき)漁場に波逆巻きし  (石巻市駅前北通り・津田調作)

点滴の落ちる間隔確かめつ自分のいのちの雫(しずく)のごとし  (石巻市真野・高橋としみ)

大地震(ない)に崖の大石落ちざると合格祈願の参拝絶えず  (石巻市駅前北通り・庄司邦生)

手編みとて友よりとどくマフラーの好みを知りてむらさきの色  (石巻市中央・千葉とみ子)

言論の言論のみのテレビ消す中国産の消えた節分  (石巻市恵み野・木村譲)

路地咲きのスミレを移し玄関に注(さ)し水すれば予期せぬ開花  (石巻市須江・須藤壽子)

世を狭く生きてはダメと参加するポーセラーツを作るサークル  (石巻市渡波町・小林照子)

凧(たこ)あげも羽根つきもなく孫たちは四角の画面に一喜一憂す  (石巻市須江・後藤妙子)

一向に収まる気配のない肺炎見えぬ恐怖にこころ休まず  (石巻市向陽町・中沢みつゑ)

温燗(ぬるかん)の二合とっくり傾けて妻が酌(しゃく)する太陰の春  (石巻市北村・中塩勝市)

熱燗(あつかん)の五臓六腑に沁みわたり今宵も更けゆく八十路(やそじ)の半ば  (石巻市わかば・千葉広弥)

なるようにしかならないと思いつつあえて祈るは家族の行く末  (石巻市蛇田・菅野勇)

三千歩いや四千歩 天気より膝のご機嫌次第の散歩  (東松島市赤井・佐々木スヅ子)

店先のケースの中に売られてる蟹が身余すごとき音たつ  (女川町・阿部重夫)

でもまぁだあなたのもとへ行けないの一人暮らしのやる事いっぱい  (石巻市高木・鶴岡敏子)