コラム:プライベート

 このところ、PJという2文字がメディアを飛び交っています。private jet(プライベート・ジェット)の略語で、前日産自動車会長カルロス・ゴーン被告がレバノンに逃亡した事件で、被告が出国に使ったとみられています。

 「プライベート」というカタカナ語は、日本語にすっかり定着しています。「仕事とプライベートはきっちり分けています」。TVの取材に応じた女性の言葉のように。

 仕事が「公」であるのに対し、プライベートは「私」にあたりますが、英語の private には「私事」という意味はなく、「個人の、私的な」という形容詞です。理屈からすれば、前述の女性は「プライベート」ではなく「プライベート・ライフ」( private life )と言うべきでした。

 でも、このようなカタカナ語を用いずとも、日本語には「私生活」という、れっきとした言葉があるではないか。ただ、実際の会話ではそうはいきません。「仕事と私生活は」では、どうもしっくりこない...。

 さて「プライベート」に近い言葉でおなじみなのが「パーソナル」。これは英語の personal で person(=パーソン「一個人としての人」に由来します。例えば「パソコン」は「パーソナル・コンピューター」personal computer の略語。

 それでは、personal と private はどう違うのでしょう?

 private は「私的な」ですが、反意語は public(パブリック)「公」、つまり「みんなが周知のこと」。「パソコン」は個人で所有して個人で使うコンピューターということです。「隠し事」というニュアンスはありません。それに対して「プライベート」の反対は「公にされていない」「隠された」になります。

 カルロス・ゴーン氏はコソコソ隠れて逃げた...まさに「(プライベート)ジェット」がふさわしいと言えますね。

大津幸一さん(大津イングリッシュ・スタジオ主宰)