先日、公開された映画「帰郷」を見ました。藤沢周平の原作を「北の国から」の杉田成道がメガホンをとり、史上初の"8K撮影"で雄大な自然を背景に描いた股旅時代劇です。主演の仲代達矢にひかれたことが大きな理由でした。黒澤明監督の「影武者」「乱」や小林正樹監督の「切腹」をはじめ、日本が世界に誇る名作に数多く出演するなど、現在の日本映画界を牽引する役者です。また音楽が加古隆というのも魅力でした。すでに86歳という老境に達した仲代達矢が、自身の役者人生の全てを懸け、どのような演技を見せるか...
さて、「帰郷」は英語で homecoming。「帰郷する」は come/go home で、シチュエーションに応じてこれら二つの動詞を使い分けます。go home は、自宅以外の場所にいて、そこから家に行く(向かう)場合に。例えば、" I have to go home."は「家に帰らなきゃ」。それに対して、家を視点に置く場合は come home を用います。「(電話で家族に)7時ごろに帰るよ」は" I'll come home around seven."
ただし昨年10月フランス・カンヌで開催された国際映像コンテンツ見本市(MIPCOM)のワールドプレミア、つづく第32回東京国際映画祭での特別上映では、「帰郷」は" The Return "と英訳されていました。" Homecoming "より簡潔で、いい感じです。
仲代演じる宇之吉は若い頃、わけあって故郷の木曾福島を出奔。流浪の旅を続け、病に倒れる。老い先を悟った彼は帰郷の途に...。旅の途中、宇之吉は時おり山々に向かって手を合わせ絞り出すような声で静かに唱えます。「生者必滅」「会者定離」。上映中、わが老境と重ね合わせて涙が止まりませんでした。
大津幸一さん(大津イングリッシュ・スタジオ主宰)