コラム:不要不急

 梅や桜の便りが届き、もうじき弥生3月を迎えます。

 「もうすぐ春」にあたる英語に、" Spring is just around the corner. "(春はちょうどそこの角を曲がるところ)というのがあります。「春が街角から顔をのぞかせている」といった絵画的でかわいらしい表現ですね。

 心ときめく季節が訪れようとしているのに、目下、私たちは地球規模の「新型コロナウイルス」( New Coronavirus)の猛威に怯(おび)えています。virus はドイツ語をはじめイタリア語などラテン系の言語では「ヴィールス」などと発音されますが、英語では「ヴァイラス」のような発音になります。

 政府および各自治体は、対策としてマスクの着用や手洗いの励行を促すとともに、不要不急の外出を控えるよう訴えています。

 この「不要不急」という言葉。メディアで見聞きするたび興味をそそられます。「『フヨーフキュー』って何?」と子どもに問われて返事に窮する若い人が多いと聞きますが、これは一昔前の「官」の雰囲気を漂わせる語句です。ちなみに広辞苑には「明治期の造語」と記されています。外国語を学ぶことは日本語を振り返ること...。

 それでは「不要不急」は英語でどう表すか...なかなか名案が浮かびません。つまりこの4文字の簡潔な表現に及ぶものは見当たらないのです。

 手元の和英辞書を見ると、「不要」は nonessential( non = 不、 essential = 重要な )、「不急」は nonurgent( non + urgent = 緊急な )で、これを合わせると nonessential and nonurgent となります。長々として見るからに難解な英語ですね。さらに、「フヨウフキュウ」は1秒以内で発音できますが、これには2~3秒要します。

 「不要不急」は、やはり「官決」な言葉と言えるでしょう。

大津幸一さん(大津イングリッシュ・スタジオ主宰)