俳句(5/10掲載)

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【石母田星人 選】

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一斉に賢治の空へ白辛夷  (石巻市小船越・三浦ときわ)

【評】宮沢賢治の作品には数多くの樹木の花が出てくる。早春、他の木に先駆けて枝いっぱいに白い花を咲かせる辛夷(こぶし)もそのひとつ。たくさんの花びらの手を伸ばして、青空と吹き渡る風をつかもうとしている。

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紙風船一打一打に変形す  (石巻市小船越・芳賀正利)

【評】この句の紙風船は、紙手鞠(てまり)と呼ばれるもの。赤や黄などの半透明グラシン紙を球状に貼り合わせている。富山の売薬さんが置いていく角風船ではない。「変形す」の把握が見事。実際に風船をつかないと、こうは感じられないだろう。シャリシャリした感触の紙風船をつくと形の変化とともに音も変わっていく。演出をするのは手のひらの力加減。視覚と聴覚そして触覚を総動員した一句。辺り一面に春が散らばる。

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春光をひとり占めして畑仕事  (東松島市矢本・菅原れい子)

【評】季語「春光」は本来、春の風光や春の景色を言ったが、春の日光の意としても用いられる。耕せば土の中に、水やりをすれば葉の上に春の光が転がる。

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もう一度跳ねて甘ゆる仔馬かな  (東松島市矢本・雫石昭一)

【評】全力で遊ぶ仔馬。静かになったかと思ったらまた大きく跳ねた。仔馬の躍動が生き生きと描かれている。そばに寄り添う母馬の姿にも思いが至る。

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恐竜の骨格残し月おぼろ  (石巻市相野谷・山崎正子)

田水引き水の惑星始まりぬ  (石巻市広渕・鹿野勝幸)

空よりも水田に濃くて島の虹  (東松島市矢本・紺野透光)

かごめ唄かこみて遊ぶ躑躅かな  (石巻市丸井戸・水上孝子)

海嘯がここまで来しと梅ひらく  (石巻市蛇田・石の森市朗)

春色や気球に乗りて風となる  (東松島市新東名・板垣美樹)

母の日や波打ち際に桜貝  (石巻市吉野町・伊藤春夫)

春宵の灯の入る頃の仁王門  (石巻市桃生町・西條弘子)

風光り島に放送鳴りわたる  (多賀城市八幡・佐藤久嘉)

苧環に水滴一つ光風裡  (仙台市青葉区・狩野好子)

蓬摘む籠の中から鳴るメール  (石巻市桃生町・佐々木以功子)

強風に肩寄せ合うて黄水仙  (石巻市北上町・佐藤嘉信)

公園に授業のチャイム春深む  (石巻市中里・川下光子)

閉店の街静もりて南吹く  (石巻市南中里・中山文)

尻濡らす潮も知らずに潮干狩り  (石巻市門脇・佐々木一夫)

山菜の並ぶ店先里の春  (東松島市赤井・茄子川保弘)