コラム:" I can't breathe! "(中)

 去る6月9日 、ジョージ・フロイド( George Floyd )氏の葬儀が故郷のテキサス州ヒューストン( Houston )の教会で行われました。そのもようをCNNテレビで見ましたが、姪のブルック・ウィリアムズさんが「法は常にアフリカ系アメリカ人にとって機能しないように制定されてきました。この腐敗した法制度は変えるべきです」と、涙ながらに訴えたのが印象的でした。

 事件から2週間余りの間、白人警官による黒人への虐待というこの事件をきっかけとした抗議デモはアメリカ全土に広がり、ワシントン・ポスト紙電子版は、首都ワシントンで6月6日に1万人以上が参加したと報じています。

 人々が掲げるプラカードでひときわ目立つのは、BLACK、LIVES、MATTER(ブラック、ライヴズ、マター)の3語。「黒人の命だって大切なのだ」と訳せます。

 matter は名詞なら「問題、事項」。 What's the matter with you?(あなたについて問題は?→どうしたんですか?)という会話表現でご記憶の方もおられるでしょう。これが動詞に用いられると「問題となる、重要だ」といった意味になります。

 振り返れば、奴隷解放宣言から100年目にあたる1963年の8月28日、首都ワシントンで、黒人を中心にした二十数万人の大群衆が黒人差別の即時撤廃を要求して行った「ワシントン大行進」( The Great March on Washington )。マーティン・L・キング牧師の演説「私には夢がある」" I have a dream."は不朽の名演説として知られています。そして、翌64年に公民権法成立。さらには2009年、アメリカ初の黒人大統領としてオバマ大統領が就任。人種問題は解消に向けて大きく前進してきたかと思っていました。

 しかし、昨今の事件に見られるように、アメリカにおける人種間の対立の根は深いようです。

大津幸一さん(大津イングリッシュ・スタジオ主宰)