俳句(6/21掲載)

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【石母田星人 選】

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夏の霧まばらな松をしばし抱き  (多賀城市八幡・佐藤久嘉)

【評】宮城県の沿岸に点在する海岸林は、数百年の歴史を持つ。数多くの樹木で形成されているが、その中心にあるのは松の木々。津波に倒される直前まで、強風や飛砂・飛塩から陸地を守る役目を担ってきた。松は人間が植え、管理をしないと育たない。松は人とともに生きる植物なのだ。現在、生き残った松たちは根腐れにも負けず立ち続けている。この句、その松を縫うように夏霧が抜ける。やさしくいたわるように。

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声挙げてラジオ体操庭若葉  (石巻市小船越・三浦ときわ)

【評】はびこる感染症は外出や楽しいおしゃべりを奪い去った。ならばと庭先に出て大きな掛け声で体を動かす。身を反らすと草木の若葉が笑いかけてきた。すがすがしい空気を胸いっぱいに吸い込んだ作者。

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七月の扉をひらき水浴びる  (石巻市小船越・芳賀正利)

【評】扉とは浴室の扉だ。ならば一月とか三月でもよさそう。だが七月は動かない。暑さから戻って水を浴びる待望の扉だ。七月の季感に寄り掛かった一句。

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黒南風(くろはえ)や宅配員の襟滲む  (東松島市矢本・雫石昭一)

【評】黒南風は梅雨の長雨が続く時期に吹く湿った南風のこと。ちなみに梅雨明けの明るい空に吹く風は白南風。にじむ汗からどんよりとした空間が広がる。

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心太背骨の歪み父譲り  (東松島市新東名・板垣美樹)

蝸牛つまづく媼振り返る  (石巻市蛇田・石の森市朗)

絮毛ふく児といていつも日曜日  (石巻市開北・星ゆき)

たんぽぽの綿毛は遠い旅に出る  (東松島市矢本・菅原れい子)

文字摺草筆のひねりに身を委ね  (石巻市丸井戸・水上孝子)

汗だくのピアスのハート光りけり  (東松島市矢本・紺野透光)

黒潮に搦め捕られて五月雨  (石巻市門脇・佐々木一夫)

卯波立つ軍艦島の地獄段  (石巻市中里・川下光子)

鳥海山や両手に受くる夏の星  (石巻市南中里・中山文)

寺よりの木魚聞きつつ草むしり  (石巻市広渕・鹿野勝幸)

舫ひ杭覆ふ夏草渡し跡  (石巻市桃生町・西條弘子)

大輪の紅薔薇香る風の音  (仙台市青葉区・狩野好子)

煙追ふ昼の半月夏空に  (石巻市北上町・佐藤嘉信)

父の日や子の絵の中の母の顔  (石巻市吉野町・伊藤春夫)

植田水夕日しづかに吸ひ込んで  (東松島市あおい・大江和子)

田植終え日本列島緑なる  (石巻市桃生町・高橋冠)