コラム:" I can't breathe! "(下)

 お休みを頂いていた20日余りの間、アフリカ系アメリカ人(以下、黒人と表記)男性ジョージ・フロイド氏の事件を契機に、米国のみならず世界中で実にいろいろなことが起こりました。Black Lives Matter(ブラック ライブズ マター=黒人の命は大切だ)を掲げた白人も含めたさまざまな人種の大規模なデモ、さらには黒人に差別的な言動を行ったとされる歴史上の人物の銅像が引き摺(ず)り下ろされる映像が世界を駆け巡りました。

 かつて英国への旅で、私はビートルズの故郷リバプール、およびイギリス西部の港ブリストルを訪れました。実は、この二つの港町はイギリス産業革命の原動力となった「三角貿易」、つまり奴隷貿易の拠点として名を馳(は)せた町。言うなればアメリカの黒人差別の「原点」とも言うべきところなのです。

 奴隷貿易といえば、日本でも親しまれている Amazing Grace(アメージング・グレース)を作詞した John Newton(ジョン・ニュートン、1725~1807年)は英国の奴隷商人で、難破事故に遭遇し奇跡的に助かったことからキリスト教に帰依し、やがて牧師として奴隷貿易廃止運動に身を投じたという経歴の持ち主です。

 Amazing Grace は直訳すると「驚くべき神の恩愛」。次のような歌詞で始まります。

素晴らしき神の恵みよ
なんと甘美な響きか
私のような恥知らずをお救いくださった
道を見失っていた私を見いだしてくださった
見失っていたものが今は見える
かつては盲目であったが、今は見える

 「黒人差別は消えることのないアメリカの病です」。友人で米国で旺盛(おうせい)にビジネスを展開している日本人女性の言葉。確かに根深い問題です。しかし、私はキリスト教徒ではありませんが、神を見いだし自己の罪の深さに気づくことに、差別問題を考える上で解決への一つの可能性がありそうに思えるのです。

大津幸一さん(大津イングリッシュ・スタジオ主宰)