俳句(7/5掲載)

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【石母田星人 選】

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ほととぎす来てゐる浜の診療所   石巻市桃生町/西條弘子

【評】診療前の椅子は何とも落ち着かない。そこに聞こえてきたのが「テッペンカケタカ」という鳥声。このホトトギスの声で少しだけ気持ちが楽になった。先ほどまで全く意識しなかった波音も聞こえてきた。この句の臨場感は、他の鳥の声では決して出せない。

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喪の門の犬撫でて過ぐ油照   東松島市矢本/紺野透光

【評】風がなくて、じっとしていても汗ばむような暑さ。そんな蒸し暑さの中にも悲しみはやってくる。喪の門のそばにいる犬。亡くなったのはこの犬の飼い主だろう。なでていったのは犬を知っていた弔問客か作者か。いや、きっと亡くなった飼い主に違いない。思考力や判断力を減退させる油照。そんな暑さの下、不思議なことが起きてもおかしくはない。

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終点の駅までたどる地図の初夏   石巻市渡波町/小林照子

【評】旅好きにはつらい自粛の期間だった。やっと県をまたぐ移動が可能になった。早速計画を立てる。床いっぱいに広げた地図に初夏の日差しがあふれる。

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金継ぎの父の茶碗や五月雨   東松島市新東名/板垣美樹

【評】金継ぎは割れやひびなどの破損を漆で接着し金粉などで装飾する修理法。茶碗を持つたび金継ぎの景色を愛でるのだろう。人柄の一端が見えるようだ。

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十年の過ぎたる淵や夕螢   東松島市矢本/雫石昭一

清らなる大気もどせし長命縷   石巻市丸井戸/水上孝子

白南風や鯨の親子睦まじく   石巻市小船越/芳賀正利

傘立ての二本卯の花腐しかな   石巻市中里/川下光子

がにまたの幼どすどす朱夏の土   石巻市開北/星ゆき

爪切れば蟻の一匹爪運ぶ   石巻市蛇田/高橋牛歩

磯遊び近くなりたる島の間   石巻市蛇田/石の森市朗

頼りなき茎にある朝ポピーかな   石巻市広渕/鹿野勝幸

芒種はや時差登校の子の笑顔   仙台市青葉区/狩野好子

青葉風ころりこぼるるイヤリング   石巻市桃生町/佐々木以功子

ででむしの歩みは宇宙の果てるまで   石巻市吉野町/伊藤春夫

つり橋を揺らして落つる瀑布かな   石巻市南中里/中山文

夏草の重り合うて空き地なり   多賀城市八幡/佐藤久嘉

朝露に濡れて凜凜花菖蒲   石巻市門脇/佐々木一夫

稜線に居並ぶ風車夏の雲   石巻市恵み野/木村譲

雨乞いをするのか蛙の声せわし   東松島市矢本/菅原れい子