俳句(8/16掲載)

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【石母田星人 選】

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背山前山育ち盛りの雲の峰   石巻市相野谷/山崎正子

【評】育ち盛りとは本来、子どもの体が目に見えて成長する時期をさす。この句の対象は子どもではなく雲の峰。一見、懸け離れた言葉のようだが、この語の働きでせりあがる入道雲の動きが鮮明に見えてくる。

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青時雨主従の恋の口説かな   石巻市桃生町/西條弘子

【評】季語「青時雨」は、雨上がりの青葉から水が滴り落ちること。冬の季語「時雨」に見立てた言葉で日本人の豊かな感性が凝縮されている。この句、その青時雨のみずみずしさの向こう側に、ドラマチックな場面を捉えている。水滴に打たれてぬれたお節の髪。喜右衛門が優しく拭いている。悲恋の道行きの中にもきっとあっただろう、そんな相思相愛の姿を描いた。美しい季語は実景を超えた世界をも見せてくれる。

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郭公に誘はれて出る一歩かな   石巻市桃生町/佐々木以功子

【評】外出の機会が減った昨今。久しぶりに聞いた郭公。いつもなら哀愁漂う旋律だが、きょうは明るく「外に出ようよ」と言っているように聞こえたのだ。

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大夕立くの字しの字に坂の町   多賀城市八幡/佐藤久嘉

【評】「くの字しの字に」で雨の激しさと力強さが表現されている。この中七は、大夕立と坂の町の上下両方にかかっているように読める。立体的な構成だ。

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土手を越え草なぎ倒し梅雨出水   石巻市蛇田/石の森市朗

泥の背の黙の手びさし出水川   石巻市開北/星ゆき

草は黙われも黙して草を引く   石巻市広渕/鹿野勝幸

明易しさくりさくりと鍬使ふ   石巻市小船越/三浦ときわ

青芦原川面は太古の昔より   石巻市北上町/佐藤嘉信

盆僧の鎖骨あらはに老いにけり   東松島市矢本/紺野透光

復興の余韻かすかに遠花火   東松島市矢本/雫石昭一

児の椅子のきゆと鳴くなり柿の花   石巻市小船越/芳賀正利

唐突に会話さえぎる蝉の声   仙台市青葉区/狩野好子

ラジオ体操空かき混ぜて青楓   東松島市新東名/板垣美樹

行き先の決まらぬ海月ゆうらゆら   石巻市吉野町/伊藤春夫

水無月や水琴窟の音響き   石巻市丸井戸/水上孝子

遠雷や母のほくろを思ひ出づ   石巻市駅前北通り/小野正雄

お茶室の雨戸をとざす苔の花   東松島市矢本/菅原れい子

夏霧や西行戻しの松さやぐ   石巻市南中里/中山文

風鈴の音色懐かし鴨居かな   東松島市赤井/茄子川保弘