【石母田星人 選】
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鮎焼くや泳ぐ姿に串を刺し 石巻市吉野町/伊藤春夫
【評】今年も7月1日に鮎漁が解禁になった。鮎は塩焼きがうまい。まず串打ち。右を向けた鮎の口から串を入れる。身をくねらせて中骨を縫うように刺す。串打ちを終えたものをまな板に並べて上から見ると、鮎の群れがくねくねと泳いでいるように見える。この句はその光景と思いを素直に詠んだ。実際に串打ちをしなければこの「泳ぐ姿」の表現は発見できない。
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ソーダ水迷路の多き小さき島 東松島市新東名/板垣美樹
【評】不案内な小島を歩く。至るところに通り抜けできない路地。行ったり来たりを繰り返す。それでもこの句には困った様子や深刻さがない。かえってこの状況を楽しんでいるようにも思える。そう見せるのは「ソーダ水」という季語の持つイメージの力。
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梅雨鴉この世の黒を使ひきる 石巻市小船越/三浦ときわ
【評】雲が垂れこめた梅雨空をわが物顔に飛ぶ鴉。枝に止まった羽の黒は、梅雨空の暗さを吸収したかのようにさらに黒く見えた。中七以下の表現が巧み。
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麦畑は風の遊び場赤子泣く 石巻市相野谷/山崎正子
【評】麦畑を風が渡る。黄金色の穂をなでる様子もその乾いた音も実に心地よい。実際に赤子が泣いたのかもしれないが、風の赤子の存在を思ってしまう。
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青大将のそり手樽の沖のぞく 多賀城市八幡/佐藤久嘉
潮の香のここが産土燕の子 石巻市蛇田/石の森市朗
青蜥蜴石の温みを抱きをり 石巻市小船越/芳賀正利
雲晴れて海月も踊る凪の海 石巻市門脇/佐々木一夫
一輌の電車西日に頭振る 東松島市矢本/紺野透光
打たれても打たれても飛ぶ梅雨の蝶 石巻市丸井戸/水上孝子
満水のダムの響きや二重虹 東松島市矢本/雫石昭一
夏の朝あひる模様の布を裁つ 石巻市中里/川下光子
沙羅の花蕾のかたく天を向く 仙台市青葉区/狩野好子
草笛の音色を置いて今いづこ 東松島市矢本/菅原れい子
ごつごつと岩のかたまり雲の峰 石巻市桃生町/高橋冠
梅雨空へタッチしたがるミニトマト 石巻市恵み野/木村譲
島の百合哀切秘めて崖に立つ 石巻市中里/須藤清雄
コンビニへ歩いて五分夏帽子 石巻市向陽町/佐藤真理子
丁寧に縫はれし母の藍浴衣 石巻市流留/大槻洋子
蝉時雨降るなか母の忌を迎へ 石巻市三ツ股/浮津文好