俳句(8/30掲載)

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【石母田星人 選】

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羽抜鶏一気に越える水溜り   石巻市蛇田/石の森市朗

【評】鳥類は夏から秋にかけて、全身の羽毛が抜け替わる。中でも鶏は元気を失い、細い鳥肌があらわになり、とさかも色あせてみすぼらしい姿になる。季語「羽抜鶏」を使った多くの句は、威厳をなくしたその風貌から哀れさ滑稽さを前面に出して詠まれている。だがこの句は違う。この鶏は元気いっぱい。羽抜鶏のもつイメージを拭い去るように駆け回る。雨上がりのこの庭には音や光があふれている。心安らぐ原風景。

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蜻蛉やコインマジック見抜きをり   東松島市新東名/板垣美樹

【評】トンボの前で人さし指を回す。指に合わせて愛らしく頭を動かすトンボ。まるでコインマジックに夢中になる観客のようだと感じた作者。そんなことを考えているうち、逃げられてしまった。

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白日の南部風鈴音ひとつ   石巻市丸井戸/水上孝子

【評】南部鉄器の風鈴は、重厚な見た目と違って、高く澄む音色と長い響きが特徴。その特徴を踏まえた「音ひとつ」で、日中の異常な暑さを表現している。

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ふる里は線香花火のど真ん中   石巻市吉野町/伊藤春夫

【評】夏の真ん中にいた花火大会が中止になった。そこで庭での手花火。線香花火の玉がだんだん大きくなる。やはりふる里にはこの輝きが似合うと感じた。

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桑の実にむらさき色の母郷かな   東松島市矢本/紺野透光

山百合の溢れんばかり海へ向き   石巻市相野谷/山崎正子

白百合の散華の近き蕊の反り   石巻市小船越/三浦ときわ

大輪の百合の香つよし寺の庭   仙台市青葉区/狩野好子

通り雨紫陽花の色鮮やかに   石巻市桃生町/佐々木以功子

地球儀を回し遊ぶ児終戦日   石巻市小船越/芳賀正利

色あせし防空ずきん敗戦忌   東松島市あおい/大江和子

発電の羽根ゆつくりと秋の朝   東松島市矢本/雫石昭一

あの波に遺言なき友盆来たる   石巻市渡波町/小林照子

漁火の番屋も消えし夏かもめ   東松島市矢本/菅原れい子

信号の気怠き夏や浚われ地   多賀城市八幡/佐藤久嘉

マスクして皆マスクして盆の客   石巻市広渕/鹿野勝幸

梅雨寒や額で計る体温計   石巻市中里/川下光子

潮の香を裾で捌くや白絣   石巻市門脇/佐々木一夫

夜濯や亡母の椅子に猫といる   石巻市開北/星ゆき

天の川夜間飛行の紛れ込む   石巻市流留/大槻洋子