コラム:帰省

 お盆を迎えました。「盂蘭盆会(うらぼんえ)」と称する仏教ゆかりの行事。道路は大渋滞、電車や飛行機も満員となる言わば国民的大イベントです。ところが今年はコロナ禍により異変が生じています。各メディアに連日登場する「帰省」の2文字。これをめぐって各都道府県の知事や医学会の見解が異なり、多くの国民が戸惑っているのが現状です。

 「帰省」について、辞書にはこう記してあります。「故郷にかへって父母の安否をたづねる」(諸橋大漢和辞典 大修館書店)。「父母の安否を尋ねる」...ここが「帰郷」と異なるのかと初めて知ったしだい。

 文化や慣習の違いでしょうか、英語圏では「帰省」「帰郷」の区別はないようです。

 「帰郷する」は come / go home で、状況に応じてこの二つの動詞を使い分けます。自宅以外の場所にいて、そこから家に行く(向かう)場合は go home。例えば、" Sorry, I have to go home. "は「わるいけど家に帰らなくては」。それに対し、家に視点を置く場合は come home を用います。「(電話で家族に)明日の夕方帰るよ」は、" I'll come home tomorrow evening. "

 「帰郷」は故郷を視座に置いての言葉ですから、come + home で homecoming と言います。

 生まれ故郷の石巻に住み、すでに両親とも他界した私には「帰省」も「帰郷」とも縁がありません。ちょっぴり寂しい気持ちです。ちなみに、東京に暮らしていた大学時代、どうしても帰れない年がありました。その頃、巷に流れていたのが加藤登紀子の「帰りたい 帰れない」(1970年)...「コロナ」の一日も早い収束を念じつつ、ふと口ずさんでしまいます。

大津幸一さん(大津イングリッシュ・スタジオ主宰)