【石母田星人 選】
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スクラムの熱き血滾る実葛 石巻市丸井戸/水上孝子
【評】ラグビーワールドカップ(W杯)日本大会が繰り広げられていたのは昨年の今頃。釜石鵜住居復興スタジアムでの、フィジー対ウルグアイ戦は胸を熱くしてくれた。この句の中七「熱き血滾る」はスクラムにも実葛(さねかずら)にもかかっている。実葛の実は艶のある赤い小さな粒の集合体。その形状がラグビーのスクラムのようだと感じた作者。ユニークな発想が生きた。
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雁渡し夕日はいつもななめなる 東松島市矢本/紺野透光
【評】雁渡しは、雁が渡ってくる頃の北風を言う。初秋から仲秋にかけて吹く。この句の下五は「ななめなる」と連体形止め。終止形「なり」でしっかり止めないのは、中七以下に捉えた感動を、上五の雁渡しにやわらかく循環させようとしているからだ。
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コンバイン秋風連れて進みをり 石巻市蛇田/高橋牛歩
【評】コンバインで稲刈り作業。どなたに聞いても「収穫するときの喜びは何物にも代え難い」と話してくれる。「秋風連れて」の表現にその喜びが見える。
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秋風の足跡続く渚かな 東松島市矢本/雫石昭一
【評】くっきりと続く足跡。飛んでばかりではなく歩く秋風もいるのだ。上五中七は風紋の意だろうが、自由に読めば現象を超えて空想に浸ることもできる。
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虫の秋ダンスフロアの傷多し 東松島市新東名/板垣美樹
天の川妻の口より数へ歌 石巻市小船越/芳賀正利
波が波呼んで三陸夏終はる 石巻市蛇田/石の森市朗
身にしむや今日の命とちちろ虫 石巻市渡波町/小林照子
逆らいてまた頷いて吾亦紅 多賀城市八幡/佐藤久嘉
人さらひ来てゐるつるべ落しかな 石巻市中里/川下光子
命火を闇に溶かして恋蛍 石巻市門脇/佐々木一夫
爽やかに堰を抜けゆく水の音 仙台市青葉区/狩野好子
ほんとうは泳げぬ海月白昼夢 石巻市開北/星ゆき
せせらぎのリズムに河鹿声かぎり 東松島市矢本/菅原れい子
ためらはず女三人心太 石巻市向陽町/佐藤真理子
新涼や松が枝うつす池の面 石巻市三ツ股/浮津文好
北上川の水嵩多し厄日かな 石巻市吉野町/伊藤春夫
供花の水お茶も干上がる秋の墓 石巻市広渕/鹿野勝幸
朝摘みとふ茄子の棘の痛さかな 石巻市南中里/中山文
白鷺や水面撫で行く風に乗り 東松島市矢本/奥田和衛