俳句(9/27掲載)

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【石母田星人 選】

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スクラムの熱き血滾る実葛   石巻市丸井戸/水上孝子

【評】ラグビーワールドカップ(W杯)日本大会が繰り広げられていたのは昨年の今頃。釜石鵜住居復興スタジアムでの、フィジー対ウルグアイ戦は胸を熱くしてくれた。この句の中七「熱き血滾る」はスクラムにも実葛(さねかずら)にもかかっている。実葛の実は艶のある赤い小さな粒の集合体。その形状がラグビーのスクラムのようだと感じた作者。ユニークな発想が生きた。

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雁渡し夕日はいつもななめなる   東松島市矢本/紺野透光

【評】雁渡しは、雁が渡ってくる頃の北風を言う。初秋から仲秋にかけて吹く。この句の下五は「ななめなる」と連体形止め。終止形「なり」でしっかり止めないのは、中七以下に捉えた感動を、上五の雁渡しにやわらかく循環させようとしているからだ。

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コンバイン秋風連れて進みをり   石巻市蛇田/高橋牛歩

【評】コンバインで稲刈り作業。どなたに聞いても「収穫するときの喜びは何物にも代え難い」と話してくれる。「秋風連れて」の表現にその喜びが見える。

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秋風の足跡続く渚かな   東松島市矢本/雫石昭一

【評】くっきりと続く足跡。飛んでばかりではなく歩く秋風もいるのだ。上五中七は風紋の意だろうが、自由に読めば現象を超えて空想に浸ることもできる。

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虫の秋ダンスフロアの傷多し   東松島市新東名/板垣美樹

天の川妻の口より数へ歌   石巻市小船越/芳賀正利

波が波呼んで三陸夏終はる   石巻市蛇田/石の森市朗

身にしむや今日の命とちちろ虫   石巻市渡波町/小林照子

逆らいてまた頷いて吾亦紅   多賀城市八幡/佐藤久嘉

人さらひ来てゐるつるべ落しかな   石巻市中里/川下光子

命火を闇に溶かして恋蛍   石巻市門脇/佐々木一夫

爽やかに堰を抜けゆく水の音   仙台市青葉区/狩野好子

ほんとうは泳げぬ海月白昼夢   石巻市開北/星ゆき

せせらぎのリズムに河鹿声かぎり   東松島市矢本/菅原れい子

ためらはず女三人心太   石巻市向陽町/佐藤真理子

新涼や松が枝うつす池の面   石巻市三ツ股/浮津文好

北上川の水嵩多し厄日かな   石巻市吉野町/伊藤春夫

供花の水お茶も干上がる秋の墓   石巻市広渕/鹿野勝幸

朝摘みとふ茄子の棘の痛さかな   石巻市南中里/中山文

白鷺や水面撫で行く風に乗り   東松島市矢本/奥田和衛