俳句(10/11掲載)

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【石母田星人 選】

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詩ありて秋刀魚の饅で独り酌む   東松島市矢本/紺野透光

【評】今回はサンマの記録的な不漁を詠んだ作品が多く届いた。注目したのは、ぬたをうまそうに味わうこの句。いい詩があればこその一品なのだろう。

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けらつつき助詞の一字に惑ひをり   石巻市蛇田/高橋牛歩

【評】俳句を作っていると、助詞の1字がなかなか決まらないことがある。短い俳句は1字で句の表情が大きく変わるのだ。そんな時は散歩に限る。秋の森を歩く作者。突然けらつつき(キツツキ)が幹をたたき始めた。森が静から動へ。やめるとまた静の世界だ。その繰り返しで森の表情が変化する。小さな鳥が出す音で広い森の明るさや雰囲気が切り替わる。この音はまるで俳句の助詞のようだ。よく聞くと森に落ち葉を促しているようにも聞こえる。秋は急ぎ足だ。

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分け入つて少女芒となりにけり   石巻市相野谷/山崎正子

【評】誰がいつ変身しても不思議ではない、そんな予兆を感じさせるのがススキ原という場所だ。ススキ原で遊ぶ女児の姿から、発想を飛躍させた一句。

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遠方の友との会話今日の月   仙台市青葉区/狩野好子

【評】「今日の月」は中秋の名月をさす。十五夜に連絡を取り合う。遠方の場所でお互いに月を見上げて語り合うのだ。ささやかだがこれも月見に違いない。

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悠久の北上川に浮ぶ月   石巻市小船越/芳賀正利

軽トラの荷台にくくる案山子かな   東松島市矢本/雫石昭一

大鍋に瀬音も入れて芋煮会   石巻市蛇田/石の森市朗

矢印の多き信号秋の蝶   東松島市新東名/板垣美樹

がらんどうの闇の市場や野分波   石巻市中里/川下光子

初秋やカモメは沖に胸を張り   石巻市吉野町/伊藤春夫

豊饒の海青深し秋麗   石巻市門脇/佐々木一夫

山里の墨絵暈しの秋の夕   石巻市元倉/小山英智

秋暑し水たつぷりと鉢の花   石巻市丸井戸/水上孝子

九年余の工事の浜や秋暑し   石巻市広渕/鹿野勝幸

長き夜やアルバム繰れば生者死者   石巻市開北/星ゆき

敬老の日とは侘びしきひと日なり   石巻市桃生町/佐々木以功子

かりがねや茜の湖面に声こぼす   石巻市南中里/中山文

お明日、夕陽に染まる赤とんぼ   東松島市矢本/菅原れい子

野球部の声響かせて今朝の秋   石巻市中里/鈴木登喜子

深呼吸サラダのような今朝の秋   東松島市野蒜ケ丘/山崎清美