【石母田星人 選】
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詩ありて秋刀魚の饅で独り酌む 東松島市矢本/紺野透光
【評】今回はサンマの記録的な不漁を詠んだ作品が多く届いた。注目したのは、ぬたをうまそうに味わうこの句。いい詩があればこその一品なのだろう。
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けらつつき助詞の一字に惑ひをり 石巻市蛇田/高橋牛歩
【評】俳句を作っていると、助詞の1字がなかなか決まらないことがある。短い俳句は1字で句の表情が大きく変わるのだ。そんな時は散歩に限る。秋の森を歩く作者。突然けらつつき(キツツキ)が幹をたたき始めた。森が静から動へ。やめるとまた静の世界だ。その繰り返しで森の表情が変化する。小さな鳥が出す音で広い森の明るさや雰囲気が切り替わる。この音はまるで俳句の助詞のようだ。よく聞くと森に落ち葉を促しているようにも聞こえる。秋は急ぎ足だ。
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分け入つて少女芒となりにけり 石巻市相野谷/山崎正子
【評】誰がいつ変身しても不思議ではない、そんな予兆を感じさせるのがススキ原という場所だ。ススキ原で遊ぶ女児の姿から、発想を飛躍させた一句。
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遠方の友との会話今日の月 仙台市青葉区/狩野好子
【評】「今日の月」は中秋の名月をさす。十五夜に連絡を取り合う。遠方の場所でお互いに月を見上げて語り合うのだ。ささやかだがこれも月見に違いない。
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悠久の北上川に浮ぶ月 石巻市小船越/芳賀正利
軽トラの荷台にくくる案山子かな 東松島市矢本/雫石昭一
大鍋に瀬音も入れて芋煮会 石巻市蛇田/石の森市朗
矢印の多き信号秋の蝶 東松島市新東名/板垣美樹
がらんどうの闇の市場や野分波 石巻市中里/川下光子
初秋やカモメは沖に胸を張り 石巻市吉野町/伊藤春夫
豊饒の海青深し秋麗 石巻市門脇/佐々木一夫
山里の墨絵暈しの秋の夕 石巻市元倉/小山英智
秋暑し水たつぷりと鉢の花 石巻市丸井戸/水上孝子
九年余の工事の浜や秋暑し 石巻市広渕/鹿野勝幸
長き夜やアルバム繰れば生者死者 石巻市開北/星ゆき
敬老の日とは侘びしきひと日なり 石巻市桃生町/佐々木以功子
かりがねや茜の湖面に声こぼす 石巻市南中里/中山文
お明日、夕陽に染まる赤とんぼ 東松島市矢本/菅原れい子
野球部の声響かせて今朝の秋 石巻市中里/鈴木登喜子
深呼吸サラダのような今朝の秋 東松島市野蒜ケ丘/山崎清美