俳句(10/25掲載)

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【石母田星人 選】

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木犀や災禍の空へ星放つ   東松島市新東名/板垣美樹

【評】夜にも香りを放ちその存在を主張する木犀。夜中の木犀の芳香はだれでも詠みたくなるのだろう。毎年、類想の句が届く。同じように夜の木犀を詠んでいながらこの句には独自性がある。香りと言わないで香りを描写していることだ。木犀と書けば、もうその文字が芳香を放つ。その香は星となり祈りとなる。

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後の月琥珀の中の黒き蟻   石巻市小船越/芳賀正利

【評】ことしの十三夜は10月29日。十三夜の月は、ひと月前の十五夜の月から見て、後の月や名残の月と呼ばれる。十三夜は栗名月また豆名月。団子と一緒に栗や豆を供える風習がある。ひんやりした晩秋の空に浮かぶ月。その模様を眺めていたら、琥珀(こはく)に閉じ込められた蟻を思った。この句にも深い祈りを感じる。

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ローカル線十寸穂(ますほ)の芒撫でに来る   石巻市丸井戸/水上孝子

【評】花穂が十寸にもなる立派なススキだ。線路の両側の斜面はそんなススキの大群落。車両はその間を縫うように走る。風に揺れ電車に揺れて光り輝く。

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秋澄むやボールける音宙に浮く   仙台市青葉区/狩野好子

【評】不思議な出来事のようだが、澄んだ空の下でボールの音がいつもよりはっきり聞こえてきたのだ。<大空に羽子の白妙とどまれり>が浮かんだ。

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磨崖仏千年が過ぎ秋の蝶   東松島市矢本/紺野透光

風そよぐ田んぼアートに秋の蝶   東松島市矢本/雫石昭一

石蔵の夕日まみれや椋鳥の群   石巻市小船越/三浦ときわ

陽光を物ともせずに穴惑   石巻市北上町/佐藤嘉信

端居して名残の蝉を聞きゐたり   石巻市桃生町/西條弘子

圧し折れた遺構の錆に風の秋   多賀城市八幡/佐藤久嘉

秋風の中へ踏み出す鼓笛隊   石巻市蛇田/石の森市朗

新涼や筆屋の爺の鼻眼鏡   石巻市中里/川下光子

天高くふくらんでゆく宇宙かな   石巻市駅前北通り/小野正雄

田仕舞やのろしの如く煙伸ぶ   石巻市広渕/鹿野勝幸

大内宿壁一面に懸莨   石巻市吉野町/伊藤春夫

秋潮に力注がれ魚跳ねる   石巻市門脇/佐々木一夫

スレートのよく照る駅舎曼珠沙華   石巻市開北/星ゆき

霧深し赤き尾灯の遠ざかる   石巻市南中里/中山文

正解はひとつ花野の出口かな   石巻市渡波町/小林照子

望月を右手に連れて帰り道   石巻市流留/大槻洋子