【石母田星人 選】
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木犀や災禍の空へ星放つ 東松島市新東名/板垣美樹
【評】夜にも香りを放ちその存在を主張する木犀。夜中の木犀の芳香はだれでも詠みたくなるのだろう。毎年、類想の句が届く。同じように夜の木犀を詠んでいながらこの句には独自性がある。香りと言わないで香りを描写していることだ。木犀と書けば、もうその文字が芳香を放つ。その香は星となり祈りとなる。
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後の月琥珀の中の黒き蟻 石巻市小船越/芳賀正利
【評】ことしの十三夜は10月29日。十三夜の月は、ひと月前の十五夜の月から見て、後の月や名残の月と呼ばれる。十三夜は栗名月また豆名月。団子と一緒に栗や豆を供える風習がある。ひんやりした晩秋の空に浮かぶ月。その模様を眺めていたら、琥珀(こはく)に閉じ込められた蟻を思った。この句にも深い祈りを感じる。
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ローカル線十寸穂(ますほ)の芒撫でに来る 石巻市丸井戸/水上孝子
【評】花穂が十寸にもなる立派なススキだ。線路の両側の斜面はそんなススキの大群落。車両はその間を縫うように走る。風に揺れ電車に揺れて光り輝く。
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秋澄むやボールける音宙に浮く 仙台市青葉区/狩野好子
【評】不思議な出来事のようだが、澄んだ空の下でボールの音がいつもよりはっきり聞こえてきたのだ。<大空に羽子の白妙とどまれり>が浮かんだ。
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磨崖仏千年が過ぎ秋の蝶 東松島市矢本/紺野透光
風そよぐ田んぼアートに秋の蝶 東松島市矢本/雫石昭一
石蔵の夕日まみれや椋鳥の群 石巻市小船越/三浦ときわ
陽光を物ともせずに穴惑 石巻市北上町/佐藤嘉信
端居して名残の蝉を聞きゐたり 石巻市桃生町/西條弘子
圧し折れた遺構の錆に風の秋 多賀城市八幡/佐藤久嘉
秋風の中へ踏み出す鼓笛隊 石巻市蛇田/石の森市朗
新涼や筆屋の爺の鼻眼鏡 石巻市中里/川下光子
天高くふくらんでゆく宇宙かな 石巻市駅前北通り/小野正雄
田仕舞やのろしの如く煙伸ぶ 石巻市広渕/鹿野勝幸
大内宿壁一面に懸莨 石巻市吉野町/伊藤春夫
秋潮に力注がれ魚跳ねる 石巻市門脇/佐々木一夫
スレートのよく照る駅舎曼珠沙華 石巻市開北/星ゆき
霧深し赤き尾灯の遠ざかる 石巻市南中里/中山文
正解はひとつ花野の出口かな 石巻市渡波町/小林照子
望月を右手に連れて帰り道 石巻市流留/大槻洋子