コラム:VS.

 米大統領選挙に向けたトランプ大統領とバイデン前副大統領との1回目のテレビ討論会。先月29日、中西部オハイオ州で行われ、両氏は90分余りにわたって激しい論戦を交わしました。しかし「討論」の名に値せぬほど不毛な応酬となり、「敗者は米国民」と欧米のメディア。たとえば、" The clearest loser was America."「最も明確な敗者はアメリカ」(英国・タイムズ紙)などの指摘が見られました。

 さて、トランプ氏とバイデン氏の討論会ですが、「言葉の戦い」ということからすれば「 Trump 対 Biden 」。このような場合、現代では" Trump vs. Biden "と表すのが通例です。

 この vs. は" versus "(バーサス)の略記。ラテン語の「向きを変える」を意味する vertere に由来し、" against "(~に対抗)を表す便利な記号として日本でも新聞・雑誌の見出しなどではすっかり定着しています。なお、英語の略記ですから、後にはピリオドをつけて vs. とするのが正しい使い方です。

 便利さを求めるのは人間の常。よく用いられる略記を三つほど紹介しましょう。

 < e.g. 例>
 ラテン語 exempli gratia に由来します。英語 example から ex. とすることもあるようです。

 < vol. 巻>
 英語の volume の略記。例えば「第7巻」を V.7 としがちですが、vol.7 が正しい。

 < cf. ~と比較/~を参照せよ>
 これも英語の confer の略形ですが、便宜上「→」と記すことがあります。私的なメールやくだけた文章ではかまわないと思いますが、学術論文などでは完全に「アウト」です。

 それはそれとして、Trump vs. Biden はどうなるでしょう? 大いに気になるところです。

大津幸一さん(大津イングリッシュ・スタジオ主宰)