俳句(11/22掲載)

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【石母田星人 選】

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三夕をなぞつてゐたり芒の穂   石巻市桃生町/佐々木以功子

【評】「三夕(さんせき)」は、新古今和歌集に収められている寂蓮、西行、藤原定家の「秋の夕暮れ」を結びとした3首の名歌のこと。ときを忘れて名歌の書に没頭していた作者。筆をおいて外を見るとまさに秋の夕暮れ。現在と鎌倉の世をつなぐように芒がなびいている。

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日月の過ぎ行く速さ秋つばめ   石巻市蛇田/石の森市朗

【評】ツバメたちは民家の軒先などで子育てをした後、いったん群れとなりアシ原などをねぐらにする。秋になると一斉に飛び立ち南の国を目指す。この句は渡りに挑む直前の姿を捉えている。その勇姿を見送る作者は一抹の寂しさを感じている。身近に巣もあるのだろう。空の巣の存在にも寂しさが募る。上五中七は大震災からの歳月につながる思いなのかもしれない。

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個展出て大黄落のとどまらず   東松島市矢本/紺野透光

【評】個展に入る前も黄落していたのだが、出たら大黄落になっていた。潔く散る葉は華やかで明るい。見たばかりの絵の印象が降ってくるようにも感じる。

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十三夜ぽつんとひとつ池の中   石巻市桃生町/高橋冠

【評】天候に恵まれた今年の十三夜の月は、地球に接近した火星を脇に従えて神々しい輝きだった。池の面に浮かぶのは月。ほのぼのとしたやさしい印象。

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煌々と月上げてをり干魚棚   石巻市相野谷/山崎正子

海のいろ冬に構える色となり   多賀城市八幡/佐藤久嘉

一斉に蘆の穂絮の海へむく   石巻市小船越/三浦ときわ

紅葉かつ散りてにぎわう光堂   仙台市青葉区/狩野好子

着水の足しなやかに鴨四五羽   石巻市小船越/芳賀正利

謎解きに脳のざわめく冬の草   東松島市新東名/板垣美樹

新米の夕餉明るき家族かな   石巻市中里/川下光子

編隊を一機離れて天高し   東松島市矢本/雫石昭一

柿のれん蔵王連峰眼間に   石巻市吉野町/伊藤春夫

鉾鈴の煌めき放つ実南天   石巻市丸井戸/水上孝子

告知するせぬのあはひや露の玉   石巻市開北/星ゆき

満天星の紅葉散るときさらに燃ゆ   石巻市広渕/鹿野勝幸

急流に群れなす鮭の赤き肚   石巻市南中里/中山文

戻り鰹赤い切り身の満満と   石巻市門脇/佐々木一夫

廃村の駅のホームや神の留守   東松島市野蒜ケ丘/山崎清美

ばさばさと風に鳴るなり縮緬菜   石巻市蛇田/高橋牛歩