コラム:男はつらいよ

 数多くの優れた映画の中で、日本および日本人を見事に描いているのは山田洋次監督の「男はつらいよ」シリーズではないでしょうか。

 主人公の渥美清に個性あふれる役者陣が加わり、人情あふれる笑いと涙の物語。さらに、私が心惹(ひ)かれるのは、寅さんの旅先の風景の見事な映像美です。

 当然、海外でも評判。「英語吹き替え版」がありますが、そのDVDは日本では容易に再生できないとのこと。そこで、「寅さん」をどう英語で表すのか、ちょっとだけ挑戦してみました。

 まずタイトルの「男はつらいよ」。ネットにある「全48作の英語版タイトルリスト」によれば、第1作「男はつらいよ」は" It's Tough Being a Man. "と英訳されています。(英文法で習った「 It is ... being ~=~であることは...だ」の構文)。tough(タフ=骨が折れる)はいいとしても、「つらいよ」という軽い雰囲気を出したい..." How tough being a man! "ではどうでしょうか?

 次に寅さんの常套句をいくつか。

 *「わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又」。
  これは定番表現を用いて、
  " I was born and bred in Shibamata, Katsushika. "

 *「姓は車、名は寅次郎、人呼んで風天の寅と発します」
  " Family name is Kuruma, given name Torajiro.
   People call me Futen-no-Tora or Tora the Wanderer. "
  「風天」をどう訳すかは悩ましいところですが、ここでは wanderer(放浪者)としました。

 *「それを言っちゃあおしまいよ!」
  これは難問です。「おしまいよ」をどうするか...
  " You're spoiling every - thing if you talk like that! "
  (そんなふうに言ったら全て台無しになる)。
  あるいは、
  " That's going a bit too far. "
  (ちょっと行き過ぎじゃないか)

大津幸一さん(大津イングリッシュ・スタジオ主宰)