【石母田星人 選】
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枯葦のそのまま赦す大河かな 多賀城市八幡/佐藤久嘉
【評】岩手県北部の山に源を発して、追波湾に注ぐ全長249キロの流れ。豊かな土地を形成して、母なる川と親しまれている。下五の「大河」はこの北上川をさす。小さな流れとは全く違う悠久の大河だからこそ枯葦の存在を赦(ゆる)すことができるのだ。枯葦というと寒々とした情景が浮かぶ。だがこの句は一面の枯葦が大河の懐に包まれているようで温かい。
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一夜にて裸となるや大銀杏 石巻市桃生町/高橋冠
【評】神社や寺院、学校などにある銀杏だろうか。「大」とあるので歴史ある巨木なのだろう。それまで徐々に散っていた金色の葉が、霜の降った朝に一気に散り尽くした。辺りには金のじゅうたん。見上げると枝ばかりになった巨木。切字「や」には驚きも乗る。
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古書市を横歩きして十二月 東松島市矢本/紺野透光
【評】本好きにはたまらない古書市。ゆっくり立ち止まりながら手にとって眺めたいところだが、気ぜわしい。季語「十二月」の雰囲気に寄り掛かった一句。
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枝伐りて陽光広く冬構 石巻市丸井戸/水上孝子
【評】冬ごもりの一環として枝を払ったのだろう。庭木の枝を伐ることは陽光を得るとともに、空の形を整えることでもある。新たな空の表情を楽しめそう。
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白鳥の到来待つや沼静か 仙台市青葉区/狩野好子
熊除けの電柵を張る定義道 石巻市相野谷/山崎正子
霜月の果ての活況さんまかな 石巻市広渕/鹿野勝幸
色変へぬ松に天女の忘れもの 石巻市中里/川下光子
子を思ひ眠れぬ風の浮寝鳥 石巻市蛇田/石の森市朗
炬燵の児海豚と遊ぶ夢の中 石巻市小船越/芳賀正利
初雪やライトアップの五大堂 東松島市矢本/雫石昭一
寒牡丹鳴子こけしの絵付けして 東松島市新東名/板垣美樹
凩に向って駆ける少年団 石巻市吉野町/伊藤春夫
喉奥に濃茶の香り小春かな 石巻市桃生町/佐々木以功子
気嵐に見送りされし船出かな 石巻市門脇/佐々木一夫
冬の波湾をせばめて筏浮く 石巻市南中里/中山文
青空を我が物顔や冬烏 石巻市北上町/佐藤嘉信
己が囲はつひに十字架冬の蜘蛛 石巻市開北/星ゆき
野の星を数えて帰る農納め 東松島市矢本/菅原れい子
黄菊抱き海向く津波地蔵かな 石巻市渡波町/小林照子