短歌(12/27掲載)

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【斉藤 梢 選】

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真つ赤なるいろはもみぢのその下で語らふ親子の笑顔の若さ   東松島市矢本/川崎淑子

【評】作者の視線を追うように読みたい一首。赤く色付いている「いろはもみぢ」に、命の極まりを感じ、その美しさに心が動いた作者。新型コロナウイルス感染防止のために人混みを避け、マスクをして過ごす晩秋であれば、この「真つ赤」はいつもの色ではないだろう。木の命を見つめ、人間の命のかけがえのなさを感じ、自身にもあった時代をふと思い出しているのかもしれない。表情にある「若さ」は、純なる命の滾りか。「語らふ」の温かい声を想像する。

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卒寿なる命に注ぐ海の短歌(うた)詠めば字数に想いが余る   石巻市駅前北通り/津田調作

【評】定型に収めきれない「想い」。この一首は九十歳を迎えた作者の人生を語る。歌は人生で、歌は人だ、ということをあらためて感じさせてくれる。「命に注ぐ」とした、感覚をも味わいたい。結句には表現を追求する思いがあり、この「余る」を意識することが詠むということなのだろう。作者の「海の短歌」を読みたいと思う。

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木枯らしにいろづきし葉の皆落ちていよいよ寒き夕べとなりぬ   石巻市桃生町/三浦多喜夫

【評】季節を実感している歌。木枯らしが吹く寒さと、心の寒さが呼応する。言葉のつなぎ方がよく、調べもいい。「いよいよ」は、時間の経過と心情を表わしていて、この歌を趣きのあるものにしている。

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花吹きて花色となるこの風のわれを過ぐればなに色となる   石巻市開北/星ゆき

【評】花に吹く風が、その花の色になる。この捉え方と、「なに色となる」という一瞬の感覚が独特だ。風を見つめつつ自身を見る目。見えない風を詠む作者が、これから何を表現するのかが楽しみである。

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北上川(きたかみ)をかすめて落ちる夕の陽は鱗の雲を大河に焦がす   石巻市桃生町/高橋冠

金平糖残り十つぶびんに居りまた聴けるかな星のつぶやき   石巻市大門町/三條順子

争ってむらがっていた鳥は来ず柿は木だけがむなしげに立つ   石巻市鹿又/高山照雄

老いて尚野良で鍬持つ幸せは採りし野菜で三度の食事   東松島市矢本/奥田和衛

考えは湯に溶け冷えてまとまらず身体(からだ)沈めて追い焚きしたり   石巻市流留/大槻洋子

植物にも思いはありや喪の秋の吉兆草は花をもたざり   石巻市向陽町/後藤信子

ふる里を苛めるように雪マーク小さきだるまに雪ふりつづく   多賀城市八幡/佐藤久嘉

正座して手本みつめる末の孫いつものやんちゃ少しお休み   石巻市須江/後藤妙子

山茶花の紅なぜか恋に似て燃えては落ちて地の肥(こえ)となり   石巻市渡波町/小林照子

「やれば出来る」呪文の如く心肝にスマホ相手に悪戦苦闘   石巻市不動町/新沼勝夫

じわじわと老いの巣ごもりに迫り来るコロナと寒さと訃報のハガキ   東松島市赤井/佐々木スヅ子

四合瓶空けて傘寿の祝いなり朝の眩しさ石蕗の花   石巻市門脇/佐々木一夫

健診の結果注意がひとつ増えハードル高しマイナス五キロ   石巻市水押/佐藤洋子

細々と術後気遣う妻や子のこども言葉を穏やかに聞く   石巻市蛇田/梅村正司