【石母田星人 選】
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乳児期の歯ブラシ丸し冬木の芽 東松島市新東名/板垣美樹
【評】生後半年ほどで乳歯が生え始める子もいる。最初は親が磨く。自分で歯ブラシを持ちたがるようになると、この句に詠まれているような柄が短くて丸いブラシの出番となる。ひとりで歯を磨く赤ん坊は実に頼もしい。下五の季語「冬木の芽」もまた頼もしい。じっと動かないイメージだが、この季語には春を待つ躍動感が秘められている。乳児の歯磨きと冬木の芽。そのたくましさの中に輝く未来が見える。
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トラックへ銀鱗放つ秋刀魚船 東松島市あおい/大江和子
【評】全国で記録的不漁が続いていた秋刀魚だが、ここにきて女川魚市場が大健闘。水揚げ量、金額とも昨年を上回っている。「銀鱗放つ」という勢いのある表現で、遅れてやってきた水揚げの熱気を伝える。
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鶏の居ぬ鶏舎の奥の小春の陽 石巻市小船越/三浦ときわ
【評】「鶏の居ぬ鶏舎」に注目。この表現で読者にたくさんの鶏がいた頃の光景を想像させている。そのイメージのおかげで「小春の陽」にも動きが加わる。
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大いなる水の地球に冬立ちぬ 石巻市小船越/芳賀正利
【評】立冬の朝に、近くの川か海を前にしての一句だろう。「きょうからいよいよ冬だ」という緊張感がいつもの風景を新鮮なものと感じさせてくれた。
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月とただ一直線にある震禍 多賀城市八幡/佐藤久嘉
海鳴の聞ゆる岬石蕗の花 東松島市矢本/雫石昭一
新走ならぶ神殿祝詞かな 仙台市青葉区/狩野好子
一葉忌ひらひら育つ月日かな 東松島市矢本/紺野透光
鬼房の句碑に小春の日が溜る 石巻市桃生町/西條弘子
牡蠣肥えし森の想ひの深きこと 石巻市丸井戸/水上孝子
勝者より敗者山ほど濁り酒 石巻市開北/星ゆき
菊人形討つも討たるも美しき 石巻市吉野町/伊藤春夫
いわし雲外国船が着岸す 石巻市蛇田/石の森市朗
事務室の薬缶真ん中木の実雨 石巻市中里/川下光子
白が映ゆ浄土ケ浜の小春かな 石巻市広渕/鹿野勝幸
姫神山を撮る冬空の青を背に 石巻市南中里/中山文
雲海を乗せてゴンドラ紅葉狩り 石巻市門脇/佐々木一夫
セーターのトンネル抜けて今朝の顔 石巻市中里/上野空
店頭に焼藷を置く道の駅 石巻市蛇田/高橋牛歩
初霜や庭の花々息絶えて 石巻市桃生町/高橋冠