コラム:ハンコとサイン

 新型コロナウイルスの感染拡大が止まりません。「ステイホーム」の要請が行われる中、自宅などで仕事をする「テレワーク」( telework )が広がっています。

 そんな中、今年9月に発足した菅義偉政権は、役所に行かなくても手続きができる行政のデジタル化を掲げました。河野太郎行政改革相の並々ならぬ意気込みにより、行政手続きの99%から押印を廃止する方針が決定。「脱ハンコ」社会の幕開けです。

 ハンコ(判子)の歴史・由来について探ってみました。「印」というと思い出すのは歴史の授業で習った「漢委奴国王印」。弥生時代に福岡平野を統治した奴国の王が、当時の中国皇帝から贈られたものと考えられています。どうやら判子は中国から伝わったもののようです。

 ここでさまざまな疑問が浮かんできます。ハンコの代わりに欧米ではもっぱら「サイン」が使われている...この違いはどこから来ているのか?

 日本にも「サイン」があります。大名たちがこぞって使った「花押」。これがなぜ一般庶民に行き渡らなかったのか、日本人にはサインが馴染(なじ)まなかったのはなぜか...これは比較文化論といった大きなテーマに発展しかねませんね。

 ここからはこのコラムのテーマである「いんぐりっしゅ」の話に。

 ハンコにあたる英語は stamp もしくは seal です。一方「サイン」はちょっと複雑。「ここにサインを」は" Sign here, please. "ですが、名詞「サイン(=署名)」は signature(シグナチャー)と言います。

 つまり、sign は動詞では「署名する」ですが、名詞では「記号」「合図」「標識」などの意味になるのです。

大津幸一さん(大津 イングリッシュ・スタジオ主宰)