俳句(1/10掲載)

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【石母田星人 選】

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神宿る巨巌の空を鷹の舞ふ   石巻市小船越/芳賀正利

【評】この巨岩は、石巻市にある釣石神社のご神体だろうか。落ちそうで落ちない岩は度重なる震災にも耐えた。その上を鷹が舞う。千里先まで見通す眼力は物の本質を見抜き、爪は幸いや運をがっちりつかんで離さない。新春にふさわしい心引き締まる光景だ。

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ぼたん雪あの日の傷はまだ癒えず   石巻市向陽町/佐藤真理子

【評】大粒の雪片が舞うのを見て、高台へ避難したあの日を思ったのだろう。中七「傷」の一語があの日以降のつらさを語っている。被災した俳人の中には、雪の句が詠めなくなった人もいる。あの日降った雪で雪への印象が大きく変わってしまったそうだ。東日本大震災では多くが壊された。あの破壊の力は、俳句の季語の情趣にも及んでいた。

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冬凪や長き水脈引くつがひ鳥   石巻市蛇田/石の森市朗

【評】冬の穏やかな海をつがいの鳥が進んで行く。日差しを浴びる2羽の姿はほほ笑ましい。だがすぐに荒れた海に変わる。つかの間の安らぎのひとときだ。

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冬萌や家路をたどるランドセル   仙台市青葉区/狩野好子

【評】厳寒の枯草に目を向けると早々に萌えだした草を見つけることがある。固かった大地を緑に染めるさきがけの存在だ。その横を子供たちが弾んで行く。

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波静か十年の浜の明の春   東松島市矢本/雫石昭一

島つなぐ橋が貫く恵方道   東松島市矢本/紺野透光

新海苔の復興の香を購ひにけり   石巻市小船越/三浦ときわ

弓始御神馬過ぐる音のして   東松島市新東名/板垣美樹

鳳凰の見守る池や一茶の忌   石巻市丸井戸/水上孝子

高台へ歩幅せばめて冬帽子   多賀城市八幡/佐藤久嘉

被災浜いくつも過ぎて小六月   石巻市広渕/鹿野勝幸

年の瀬の仮設解体一区切り   石巻市元倉/小山英智

葉牡丹を植えて納めの花時計   石巻市吉野町/伊藤春夫

冬の海尖りて寄せる波の先   東松島市矢本/菅原れい子

行く道を月に教はる師走かな   石巻市門脇/佐々木一夫

初便りいつもの用箋いつもの香   石巻市蛇田/高橋牛歩

さもなきを選ぶ二才児聖夜かな   石巻市開北/星ゆき

二日はや今年句帳の詠ひ初め   石巻市南中里/中山文

冬至粥母のならひをひきついで   石巻市北上町/佐藤嘉信

もらい柚子風呂に浮べて君想う   石巻市桃生町/高橋冠