短歌(1/17掲載)

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【斉藤 梢 選】

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純白のマスクを楯に介護する黒き瞳の凜と燦(きら)めく   石巻市門脇/佐々木一夫

【評】人と接する時、その人の表情からさまざまなものを受け取る。顏の半分を覆ってしまうマスクをしての生活は、いつまで続くのだろうか。この一首は、働く人の懸命な姿を詠む。見えないウイルスと闘いながら「介護する」人の黒い瞳。「マスクを楯に」の表現は、想像の及ばないほどの仕事現場を読者に伝える。おそらく詠まずにはいられなかったのだろう。マスク一枚を「楯」にしなければならない現況を生きる人の「瞳」が、作者の心を動かした。

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ぼうたんの赤き花芽の冴え冴えと雪降る朝(あした)窓越しに見る   仙台市青葉区/岩渕節子

【評】窓越しに見る雪の朝の光景。「ぼうたんの花芽」と「雪」の色彩が美しい。「窓」は一枚の画布のようでもある。雪の朝の静けさの中にある「赤」は、命そのものであろう。日常にある「はっ」とするような出会いを、感覚的に詠んだ一首。作者の暮らしにある、花を待つ時間。

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夕暮れに遮断機は数えるかんかんかんただいまと言う人達の数   石巻市大門町/三條順子

【評】遮断機の前で列車が通り過ぎるのを待つ人たちにある帰りゆく場所。「遮断機」が数えているという捉え方がいい。「かんかんかん」の音が、一人、二人、三人、と数えているように聞こえる。「遮断機が」として、上の句と下の句の間を一字空ける方法も。

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いくたびも花をめぐれる蜆蝶なにをまようかとまることなく   石巻市駅前北通り/庄司邦生

【評】じっと見て、「とまることなく」めぐり続ける蝶の姿に<迷い>を感じとった作者。もしかしたら、作者もまた何かに迷っていたのかもしれない。蝶の動きを、心の目で見て詠んだ一首。

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コロナ禍の外出控えおだやかに年末年始家族で過ごす   石巻市桃生町/西條和江

学生の箱根駅伝ドラマあり繋ぐ襷に意地と汗とが   石巻市不動町/新沼勝夫

捨てる気の珈琲碗を漂白し「パパのだったね」と娘(こ)はふと言へり   石巻市開北/星ゆき

いくつかの離島を結び鳥帰る命を繋ぐひたすらの羽   多賀城市八幡/佐藤久嘉

苦の道のぬかるみ素足で歩き来た過去を洗いて初日を拝む   石巻市桃生町/高橋冠

雪の舞う堤に在りし水鳥の灌木の宿塒となるや   東松島市赤井/茄子川保弘

何をするともあらず昭和生まれのわれは畳の上にいるなり   石巻市桃生町/三浦多喜夫

詰め放題促す農婦の皺深し今年限りのリンゴ艶良し   石巻市北村/中塩勝市

朝刊と老眼鏡とコーヒーとプードル抱いて謹賀新年   石巻市恵み野/木村譲

初雪に又想いいるかつての日雪見障子に起こせし病夫(つま)を   石巻市南中里/中山くに子

五歳児とけん玉競うその最中「集中して」の助言(ことば)に降参   石巻市わかば/千葉広弥

娘(こ)の好きなスイートピー植え来る春に咲くを楽しみ娘(こ)と見れるやら   石巻市桃生町/千葉小夜子

老いたれば若き日ばかりを呼んでいる海の彼処此処(あちこち)時化たる海も   石巻市駅前北通り/津田調作

よろこんだ顔も見られぬ正月は年玉弾む気にもなれずに   東松島市赤井/佐々木スヅ子