短歌(2/14掲載)

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【斉藤 梢 選】

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孤老とはいい言葉なり冬薔薇子や孫たちの荷物とならず   多賀城市八幡/佐藤久嘉

【評】詠むことは、自らの心を見つめることでもある。「孤老」という言葉を知った作者は、「いい言葉」だと言う。独りで老いることの「独り」は寂しさを思わせるが、この一首には老いて生きることへの覚悟が詠み込まれていて、「冬薔薇」の姿が作者と重なる。寒さの中に咲く薔薇を心の中に見たのだろうか。「冬の薔薇」ではなく「冬薔薇」としたことで、「ふゆそうび」という音に、薔薇の華やかさよりも凜々しさと冷たさを感じさせる。自身の意志を確かめるようなこの歌は、作者の心にすっと直立しているようだ。

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冬すみれ立ち上がりたき形して庭の小道の足もとに咲く   石巻市桃生町/佐藤国代

【評】ささやかな感動を詠む。「冬すみれ」を見つけた時、小さな花に冬を生きいる懸命さを感じたのだろう。「立ち上がりたき形して」と表現した作者は、「冬すみれ」から生きる力を得たのかもしれない。かがんで見ている姿を想像できる「足もとに」。花を詠む場合、色や形を描写することも大切だが、この歌のように印象に言葉を与えることで、読者もまた、作者と感覚を共有することができる。

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風吹けば緑波立つ冬芹田凍てつく水に農夫は挑む   石巻市桃生町/高橋冠

【評】上の句、「緑波立つ」としたことで、見えない風の動きが見えるようだ。下の句の「挑む」に、冬の芹田での厳しい作業現実を知る。農夫の姿を見て詠んだ「挑む」は、この歌の要。生産者のこのような「挑む」があるからこそ、旬の芹は美味しい。

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ひたすらに昭和平成令和生き戦争震災の記憶は消えず   石巻市不動町/新沼勝夫

【評】「ひたすらに」の思いが一首全体にゆきわたるようだ。歌は人を語る。そして、経験は詠むことによって残る。かけがえのないこの歳月。下の句は、東日本大震災から十年になろうとしている今も消えない震災の脅威を伝え、追悼の思いをも切に語っている。

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己が分喰みて飛びゆく野鳥らの生きゆく術に毎朝会へり   石巻市開北/星ゆき

歩みつつ拾い集めた海の彩短歌(いろうた)に溶かして老いを楽しむ   石巻市駅前北通り/津田調作

白鳥の四羽が仲間の居ぬ場所へ不特定多数と会食せぬごと   東松島市矢本/川崎淑子

津波去り復興せし田に実りたる蘇生の稲や命尊し   東松島市野蒜ケ丘/山崎清美

そのむかし女子高ありてまぼろしの乙女ら匂う紅葉坂道   石巻市駅前北通り/庄司邦生

あたたかき言葉の温度は四十二度今日も歌壇を見たとふ電話   石巻市恵み野/木村譲

あの日より十年経ちて今も尚不明者捜す署員の苦労   東松島市矢本/奥田和衛

父逝きて四十年の星空にあの夜偲ばる一月二日   石巻市中央/千葉とみ子

今宵また活(い)きた証しの一人酒明日につなぐ命の弾み   石巻市わかば/千葉広弥

オオバコの踏まれるほどに強くなる散歩の効き目信じ踏む土   石巻市渡波町/小林照子

船(ふな)おろす海山五穀船霊に供えて祈る航海安全   石巻市水押/阿部磨

目が合ってじっとこちらを見つめてる真っ白猫はオブジェのように   石巻市丸井戸/高橋栄子