俳句(2/21掲載)

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【石母田星人 選】

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マンホールに魚の絵あり春動く   東松島市矢本/紺野透光

【評】カラフルに色付けされたマンホールのふた。その中で魚の絵が跳ねている。冬の間は雪に埋もれていたのか、この辺りを通っても見ることもなかった。久しぶりに見たら色彩が躍っていた。辺りを眺めると春めいた街。この魚の絵が街を春へと変えている。

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双六に少年火星描き足せり   石巻市小船越/三浦ときわ

【評】天文台に行くと、多くの少年少女に出会う。中には宇宙に魅せられたような子もいる。あの真剣なまなざしは頼もしい限り。掲句の少年も宇宙が大好きなのだろう。双六(すごろく)には盤もあるがこれは絵双六。その「上がり」に「火星に移住」とでも描き足したのだ。やる気満々の彼の号令で家族のこまが「振り出し」に並ぶ。火星を目指して出発だ。笑顔あふれる正月。

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大寒の漁火が闇深うせり   石巻市相野谷/山崎正子

【評】漁火が大寒の闇を造る。漁火の抒情性に寄りかかるとこんな読み。だが掲句はもっと深い。漁火のもとの人間、その労働に焦点を当てている気がする。

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お仏の螺髪に見ゆる明日の春   多賀城市八幡/佐藤久嘉

【評】パンチパーマのような髪形が螺髪(らほつ)。高徳院の鎌倉大仏だろうか。大きな螺髪から春の気配が漂ってくるというのだ。視線を上げることで捉えた真実。

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紙漉女揺籠あやすにも似たる   東松島市新東名/板垣美樹

空海の摩崖絵に添ふ紙漉場   石巻市丸井戸/水上孝子

障子開け大寒の陽を招き入れ   石巻市小船越/芳賀正利

点々と子らの靴跡薄氷   東松島市矢本/雫石昭一

あたらしき靴の軽やか春隣   仙台市青葉区/狩野好子

妻を呼ぶ一声高し冬の鳥   石巻市門脇/佐々木一夫

初明かりはや北上川に鴎舞ふ   石巻市蛇田/石の森市朗

雪掻きの持場を分ける夫婦かな   石巻市桃生町/西條弘子

天ぷらの口に崩るるふきのたう   石巻市中里/川下光子

沖を向く黒きタンカー牡丹雪   石巻市向陽町/佐藤真理子

福は内この豆ジャックのものかしら   石巻市蛇田/高橋牛歩

福寿草落葉押しのけ花開く   石巻市桃生町/高橋冠

釣瓶井戸桶さかさまに雪まみれ   石巻市中里/鈴木登喜子

すばれる夜田畑の木々もねむり込む   東松島市矢本/菅原れい子

旅にあって湯宿の庭や松の雪   石巻市三ツ股/浮津文好

工場の煙まつすぐ初電車   東松島市矢本/菅原京子