俳句(2/7掲載)

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【石母田星人 選】

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滴皆大河に集ひ春来たる   東松島市矢本/雫石昭一

【評】水滴はみな循環の旅に出る。山に降った雨は沢から大河に集い海に出る。やがて雲となって、再び山上に雨をもたらす。地下水も湧水となってめぐり、山や土の養分を運ぶ。この物質の移動が生き物の命を育む。水の循環によって生命が維持されているのだ。冬の芽からこぼれた一滴も、屋根から落ちる騒がしい雪解けの水もみな循環の旅に出る。特に春先の出立はごった返して大河も大混雑。さあ、春だ。

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泣初の赤子間もなく眠りけり   石巻市小船越/芳賀正利

【評】泣初は新年になって初めて泣くこと。赤子が泣いて眠ったという句だが、いつもと違ってその行為一つ一つがめでたく愛おしい。赤子は泣くのが仕事。この子はもう今年の初仕事を済ませた。立派な子だ。

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初松籟残月懸る不老山   東松島市新東名/板垣美樹

【評】夜明けの頃、山にはうっすらと見える月がかかっている。近くの松のこずえに吹く風は、新たな年のめでたさを深めてくれる。心が洗われる空間。

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ペン先の動き止めてや寒に入る   石巻市桃生町/佐々木以功子

【評】寒くてペンを握る手が動かなくなったのではない。文字を書いている途中にふと「きょうは小寒で寒の入り」と気づいたのだ。切字の「や」が効果的。

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立春のひかりとなりて少女舞ふ   東松島市矢本/紺野透光

踏み出せば空気の緩む御慶かな   石巻市丸井戸/水上孝子

久々の里の天神梅開く   石巻市南中里/中山文

からっぽを今満たしたき初暦   石巻市開北/星ゆき

神の子のわれも一人や初日の出   石巻市向陽町/佐藤真理子

凧あげへ加減しており河の風   多賀城市八幡/佐藤久嘉

六十階ポインセチアの窓の席   石巻市中里/川下光子

海の幸ひとつ足りずに雑煮椀   仙台市青葉区/狩野好子

三歳がわが家のスター雑煮食ふ   石巻市蛇田/石の森市朗

一月や核を許さぬ法成りて   石巻市広渕/鹿野勝幸

寒の月あくまで尖り肌に刺す   東松島市矢本/菅原れい子

雪しまき海に入りて眠りつき   石巻市門脇/佐々木一夫

大掃除終えて床屋の蒸しタオル   石巻市桃生町/高橋冠

初場所や和服姿の解説者   石巻市蛇田/高橋牛歩

一人より二人の孤独虎落笛   東松島市野蒜ケ丘/山崎清美

口喧嘩できる幸せ今日の寒   石巻市渡波町/小林照子