コラム:レディ・ファースト(下)

 前々回、man と woman について記しましたが、実は以前から疑問に思うことがあります。

 ご存知の通り、man は「男性」の他に「人」をも表します。例えば、よく知られた諺(ことわざ)、" Time and tide wait for no man."「時間と潮の満ち干(ひ)は何人(なにびと)も待たない」→「歳月人を待たず」。どちらの意味で用いられているのかは、文脈や会話の場面から理解できる場合が大半だといえるでしょう。けれども、英米人などにとっても、迷うことはあるのではないでしょうか。

 さらに、生物学的に「男」「女」を表す英語があります。雄(おす)は male(メイル)、雌(めす)は female(フィーメル)。これは人間も含めた動物一般に用いられます。

 このうち female は「女性らしい」という意味の feminine(フェミニン)という派生語を形成し、ここから「女性解放論」を表す feminism(フェミニズム)などの言葉が誕生。学生時代に接した、女性解放思想の草分け的存在として知られるシモーヌ・ド・ボーヴォワールの「第二の性」の「人は女に生まれるのではない、女になるのだ」という冒頭部は衝撃的でした。

 最後に、"Ladies first"について、イギリスとアメリカの友人の見解が寄せられたので、要点だけを記します。

 イギリス(60代男性):中世の騎士道精神に根ざし、今でも高齢者に重んじられている。恩着せがましくならないように注意すべきだ。女性に限らず弱い人に手助けするのは当然のこと。

 アメリカ(50代女性):特に南部の保守的な地域に残っている習慣で、若者の間で用いられることはない。例えばエレベーターに乗り合わせた女性に対しては"After you."(あなたのあと→お先にどうぞ)が一般的。

大津幸一さん(大津イングリッシュ・スタジオ主宰)