コラム:過ぎゆく春に―花、三題

 野も山も鮮やかな緑で覆われ、季節は早くも初夏へと移りつつあります。ここで春を彩(いろど)った花を振り返ってみましょう。

 まずは「梅」。よく plum と英訳されますが、どうやら誤りのようです。plum は「西洋スモモ」の木または実を指します。Japanese plum としても、正式には「梅」の表記にはなりません。「アンズ」を意味する apricot(アプリコット)が近いのですが、Japanese apricot とする必要があります。また、ずばり ume と表すことも可能です。ume は英語として認められつつありますから(ウェブスター新国際辞典・第3版など)。

 次に「桜」。これは通常、cherry blos-soms / flowers と英訳されています。ただし、cherry は「さくらんぼ」も意味するので、日本の桜をあまり知らない欧米人は cherry blossom tree と聞くと「さくらんぼの木」(桜桃)と勘違いする可能性が。ただし ume と同様、sakuraも英語の語彙に加えられつつあります(前述の辞典等参照)。

 最後に、野に咲く花の代表とも言える「たんぽぽ」についてです。英語では dandelion(ダンデライァン)と言いますが、これは dent de lion というフランス語起源の言葉です。dent は「歯」、de は「~の」、そして lion は英語と同じく「ライオン」で、「ライオンの歯」という意味になります。葉や花のギザギザがライオンの歯に似ているということで、このような表記になったようですが、「たんぽぽ」というほのぼのとした日本語の語感からはほど遠く、ちょっと驚いてしまいますね。

大津幸一さん(大津イングリッシュ・スタジオ主宰)