コラム:唱歌英訳の試み―「故郷」

 ふとしたご縁で米国出身の若いカップルに日本語を教えています。「私は日本語教育の専門家ではありませんが、それでもよかったら」と始めた次第。名付けて" Happy One's Casual & Enjoy-able Japanese Lessons "。二人とも平仮名が読めるし、あるていど日本語が話せます。したがって、テキストは使わず、日々の生活で気づいた日本語に関する様々な疑問を出してもらい、それをもとにレッスンを発展させてゆくという授業形式です。

 先日、「私の故郷」という題で3分間スピーチを課しました。二人とも自慢話をまじえながら話してくれたのですが、その後で、「ほとんどの日本人が知っている歌があるよ」と文部省唱歌「故郷(ふるさと)」のCDを流しました。 

〽兎(うさぎ)追いしかの山
 小鮒(こぶな)釣りしかの川
 夢は今もめぐりて
 忘れがたき故郷(ふるさと)

 二人は熱心に聴いたあと、当然ながら「歌詞の意味を教えてください」とのリクエスト。「うさぎが美味しいって、どんなことですか?」との疑問に応えるためにも、その場で英語に訳すことになりました。

 100年余り前の1914年に発表されたこの歌は文語調で、例えば「かの山」などはどう訳せばいいのやら迷いつつ、とりあえず次のような英語に置き換えたのです。ご笑覧ください。

 Often chased rabbits on those hills,
 Fished little carp in those streams ...
 Only yesterday it seems ... they still live in my dreams ...
 How can I forget my sweet home?

 「英語読みの日本語知らずになるなかれ」を座右の銘にしている私です。これからも唱歌や童謡の英訳などを通じて日本語の機微を学んでいきたいと思っています。

大津幸一さん(大津イングリッシュ・スタジオ主宰)