【水戸一志 選】
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黄砂来て帰り来ぬ士の御霊かな 石巻市水押/阿部磨
【評】日本海を渡って黄砂が飛んで来る。この見慣れた春の気象現象に、作者は胸を熱くする。大陸で戦死、或いは抑留されシベリアの凍土に眠る未帰還者の無念を思うのである。忘れてほしくない砂粒たちの魂。この世に年月ほど残酷な正直者はいない。
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無理がある欲の絡んだ年の差婚 石巻市大街道/岩出幹夫
ひっぱくと聞けば聞くほど動悸する 石巻市開北/安住和利
処理水が俺の出番と戸を叩く 石巻市不動町/新沼勝夫
夢だろか地震で妻に抱きつかれ 東松島市矢本/奥田和衛
トラ猫はアンモナイトのように寝る 石巻市桃生町/高橋冠
早すぎるひと月めくるカレンダー 石巻市中里/津田つね子
ケセラセラ老妻(つま)の一言気が楽に 石巻市蛇田/菅野勇