俳句(5/2掲載)

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【石母田星人 選】

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携帯の文字ぼんやりと目借時   東松島市矢本/雫石昭一

【評】「目借時(めかりどき)」は、蛙(かわず)の目借時を縮めた言い方。晩春は蛙が人の目を借りてゆくから眠くなる、という古い俗説に基づく俳諧味ある季語だ。さまざまに解釈されているが、蛙の声の単調な旋律は眠気を催す、と捉えるのが自然だろう。電車内で詠んだこの句。音と揺れの単調な繰り返しを蛙の声になぞらえている。

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雪濁り押して押し出す大河かな   多賀城市八幡/佐藤久嘉

【評】雪が解けて川に流れ込む水を雪しろという。「雪濁り」はその雪しろによって川や海が濁ること。雪しろで水かさを増した大河は、土を巻き込みながら勢いを増し、中七の表現のように「押して押し出す」姿を見せる。やがて、河口から吐き出された雪しろは塊となって海面を染める。印象鮮やかな一句。

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祈りあり青一色の鯉幟   東松島市矢本/紺野透光

【評】今年も空には多くの鯉のぼりが泳いでいる。青一色のこの鯉のぼりは、子どもさんの冥福を祈って飾られている。上五の「祈りあり」が胸に迫る。

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日だまりを呼んで咲きたる花菫   石巻市丸井戸/水上孝子

【評】スミレは野や道端など多くの場所に生える。共通しているのは日当たりの良さ。日光が少なければ「日だまりを呼んで」きてでも咲く。力強い花だ。

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春田打牛も涙を流すとか   石巻市蛇田/高橋牛歩

菜の花のひといろ帯びる電車かな   東松島市新東名/板垣美樹

杣道を歩めば若葉匂ひ立ち   石巻市三ツ股/浮津文好

転勤の孫の旅立ち燕くる   石巻市南中里/中山文

民宿の新しき香や花の雲   東松島市野蒜ケ丘/山崎清美

満開の桜のあわい空真青   仙台市青葉区/狩野好子

黄帽子の群れ飛び跳ねる花の道   石巻市門脇/佐々木一夫

赤子泣くこゑよくとほる四月かな   石巻市小船越/芳賀正利

求愛か決闘なるか鶏合せ   石巻市吉野町/伊藤春夫

矢も楯もたまらぬ気配揚げひばり   石巻市桃生町/西條弘子

大風の奥よりかすか初蛙   石巻市広渕/鹿野勝幸

明治へと床の軋みや春寒し   石巻市中里/川下光子

先見えぬ話に落着花は葉に   石巻市開北/星ゆき

北上川に鴨の別れのありにけり   石巻市蛇田/石の森市朗

蒲公英の小さきそよぎや貨車は過ぐ   石巻市駅前北通り/工藤久之

旅とても今はかなわずしらすどん   石巻市渡波町/小林照子