地下鉄・東京メトロが2019年から、乗務員の肉声による英語の車内放送に取り組んでいることが報じられました(朝日デジタル2021年5月23日)。東京五輪・パラリンピックの招致決定がきっかけで、各路線の現場の車掌や運転士に声がかかり、計8人の特命チームができたのだそうです。録音された自動アナウンスもあるのに、どうして?と思いますが。
一方、JR東海は東海道新幹線だけでなく在来線でも肉声による英語放送を始めているとのこと。
東京メトロもJR東海も、車掌さんの英語は録音された自動アナウンスに比べて、流暢ではないかもしれません。しかし、私はこのような試みに大いに賛同する者です。
かつて西ヨーロッパを巡る列車の旅に出かけた時のこと。時刻表を片手に次はどこの駅かと不安げな私の耳に聞こえてきたのは、ドイツ語訛(なま)りやフランス語訛りの英語でした。ゴーゴーという列車の音に混じっているのは、明らかに車掌さんの生のアナウンス。
聞き取りにくいのは確かです。しかし、録音されたものよりはるかに親しみを覚えました。ちょっと大げさに言えば「この列車の運行は私が責任を持って行う」といったリアリティや人間味が感じられたのです。
現在、新幹線を始めほとんどの列車で実施されている録音による英語のアナウンスは、確かに流暢で分かりやすいですが、列車を運行している運転手さんや車掌さんの「顔」が見えてこない...忙しい現代にあってそこまで求めるのは欲張りかなぁと思いつつ、ふとあのフランス語訛りの車掌さんの英語が懐かしく思い出されるのです。
大津幸一さん(大津イングリッシュ・スタジオ主宰)