俳句(6/27掲載)

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【石母田星人 選】

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トンネルの先に広ごる梅雨夕焼   石巻市丸井戸/水上孝子

【評】トンネルの中から眺めた梅雨の夕焼。上空の湿度が高ければ赤の濃い夕焼になる。梅雨の晴れ間の今の時期が特に鮮やか。作者の驚きも伝わってくる。

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山百合を数え芭蕉の峠越え   多賀城市八幡/佐藤久嘉

【評】『おくのほそ道』の全行程は約2400キロ。中でも最大の難所とされているのが山刀伐(なたぎり)峠。芭蕉は「高山森々として一鳥声聞かず木の下闇茂りあひて夜行くがごとし」と書く。昼でも暗く山賊や追い剥ぎが出没した危険な峠だった。芭蕉と曽良は屈強な若者に道案内を頼んでこの難所を越える。現在では遊歩道が整備されていて一番の脅威は熊出没。掲句、道の辺の山百合を数えながらの散策。一歩一歩がリズムとなりそのリズムが時空を超えて芭蕉らの歩みに重なる。

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一本の胡瓜食む音水の音   東松島市あおい/大江和子

【評】舞台は朝の畑だろうか。夏野菜のキュウリはほとんどが水分だ。「胡瓜食む音水の音」と「音」を繰り返すことでみずみずしい歯ごたえを表現した。

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路地裏の空缶ふたつ夏の朝   東松島市矢本/雫石昭一

【評】路地に残された缶蹴りの缶二つ。隠れる所が多くて広い場所の方が楽しい遊びだが、路地裏も捨てがたい。今日もまたこの路地には缶蹴りの音が響く。

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眼裏にモネの睡蓮夏に入る   石巻市吉野町/伊藤春夫

白鷺は雫のかたち水明り   東松島市新東名/板垣美樹

空港の朝の匂ひやさくらんぼ   石巻市中里/川下光子

玫瑰の駅に遊子となりて佇つ   東松島市矢本/紺野透光

緑蔭の朝の散歩や山羊の声   仙台市青葉区/狩野好子

巣ごもりに福耳の児と更衣   石巻市開北/星ゆき

青嵐銀杏の古木揺るぎなく   石巻市小船越/芳賀正利

父の日やアプレゲールの仲間たち   石巻市蛇田/高橋牛歩

北上の蛇行豊かに蜆舟   石巻市小船越/三浦ときわ

青嵐しぶきを糧に磯の松   石巻市門脇/佐々木一夫

配達に通ひし道や麦の秋   石巻市広渕/鹿野勝幸

ほととぎす羽黒神社の二千段   石巻市中里/鈴木登喜子

磯の香を饒舌にしてほっき飯   東松島市矢本/菅原れい子

少年の夢に湧き出す雲の峰   石巻市蛇田/石の森市朗

この先は短く刈って夏に入る   石巻市流留/大槻洋子

鮮紅の牡丹咲きたる医師の庭   石巻市三ツ股/浮津文好